*僕が出演させて頂いた、Netflix恋愛番組、リアラブ のネタバレを含みます。無料視聴は
こちらから。番組上にあった出来事の僕目線の内容なので、この作品全てのネタバレになることはありません。
この作品を見ていない方でも、この文章だけは読むことができます。これを見てからNetflixを観るというのも面白いかもしれない。
ーーーーーーーーーーーー
「私のリアルは、現役のAV女優です」
最終日最後のアプローチタイムであるクルージング中放たれたその一言の傷が、僕の耳に届いた時、目に見える視界が瞬間、暗転、モノクロにへと変わった。色のついた世界は時間経過とともにゆっくりと取り戻されていったが、青空の下で僕は雷に打たれたかのような瞬間の衝撃と、もぬけの殻となった焦燥感によりこの現実を僕の脳で整理できるのか、不安だった。
なんとかまとめることができた。
この沖縄で僕が好きになった女の子がAV女優だったのだ。
強めの酔い止めを飲んでいたのだが、その効果が急に切れた感じがした。一気に悪感が全身を包み込む。冬季だというのに煌々と照る真夏の赤い気温と、突き刺すような黄色い日差しが僕の皮膚を爛れさせて行くような、けれども、僕の体温は秒を刻む度に落ち込んで行くような、そんな矛盾した体感覚で、僕は船上で無邪気に、けれども懸命に傷を語る彼女の姿を見ていなくてはならなかった。それがこの空間上での決まりごとだから。
『僕のリアルは、AV男優です』
撮影初日に僕が口にした、今この場で誰しもが知っている当然の事実を、滑稽にも、自分自身で改めて内省し、彼女の放った言葉と照らし合わせるようにして確認する。
たった今僕の気持ちと僕の沖縄の旅は終わったのだと、あぁ成る程確かにAV女優であることに納得いくのは、あのリアクションやあの行動あの言動であり、今全ての行為に辻褄があったのだと、しかしそれは信じたくはなかったのだけれど、確信ではないから気持ちを持ち続けていたのだと。何も知らない僕は彼女に恋をしていたし、それなりに親密度はあり悪くない状態であったにも関わらず彼女が僕を拒絶、VTR中では『考えさせてください』と口にしていたのは、彼女は僕が『恋愛関係になることは予め禁じられている者同士』であることは既に知っていたからなのだということだったのだ。
ハナからお前とは『恋愛関係になることは絶対にない。そもそもお前が男優でなくても男的魅力は感じない眼中にない』ということを彼女が抱いていたのかは謎だが、彼女の口からその傷を聞いた瞬間に、僕も彼女から手を引かなければならないのであった。感情の介入のしようのない義務的、業務的な僕の幕引が下されたのであった。
はっきり言おう。AV男優として、セックスを毎日する身として、『女優のことを好きになる』ことは、当然ある。それは人それぞれなのだろうけれど、正直いうと僕はあるし、他の男優陣もそうなのだという。
それはセックスという究極なコミュニケーションを取っているからだと思う。体の相性が抜群によくて、終わった後にすごく仲が良くなってしまうことがあったりするし、撮影の設定で本当に恋人同士になってしまったかのように錯覚してしまうこともある。その時のセックスが忘れられなくてDMMで検索し、オカズにさせてもらったりすることもあったりする。
それらは間違いなく『好き』という感情なのだが、この業界において、それを『具体的な形にすることは固く禁じられている』。それは連絡先を交換したり、プライベートで会ったりすることだ。撮影を終え、今さっきセックスをしていたスタジオを出たその瞬間、僕たちは関わり合ってはいけない存在となる。好きだけどそれ以上のことはない。ある意味で拷問、ある意味で風情のある禁忌であると僕は思う。
僕は撮影でその都度、相手の女の子を好きになる。そしてその思いをカメラの中に置いてゆく。そしてまた次の撮影へと向かい、そこで会う女の子のことを好きになるのだ。男優という生き物はそれを繰り返す生き物、そう思っていた。
しかしながら、『好き』という感情に囚われ、過去に女優との恋に落ち、それを『具体的な形に』してしまった男優は、昔からいたようで、影でこっそり付き合う者もいれば、女優所属の事務所に挨拶をしに行き、交際、そのまま関係性が続き、結婚、という方も、どうやらいるようなのである。こっそり交際するなんかよりは、事務所に挨拶に行くってほうが潔いし、形式上は良い事のようには思うのだが、業界暦の短い僕でさえ、そんな禁忌を犯したことで、干されていった男優の噂を数回は聞いている。それがどんなに『優秀』『将来有望』と言われている男優でも、そんな運命をたどっていた。
例え男優女優が両思いでも(大抵は男の一方的な感情であることが多いが)、このような職業柄、それは間違いなくダメなことだ。まるで聖職者に近いものを感じる。個を消し、生を職に捧げること。これが、聖職者ならぬ『性職者』としての正しさなのだ。
なぜダメなのか。それは考えずともわかることだ。事務所のビジネスの柱であり、イメージであり、そしてそれをみて選び作品を構築する製作陣、作られた作品を見てシコる男、それが高じてファンになる男、それら全ての人々たちの為にAV女優という女の子達がいる。男優は彼らの夢や欲望を実現させるための代役としての存在であり、『同一化』『感情移入』する先の肉体とキャラクターを任された存在である。要はAV男優とはガンダムである。僕らは彼らの乗り物だ。彼らの乗り物である僕らは個人的感情を求められない。パイロットの感情と同一化されていなくてはいけない。ロボアニメで機体が感情を持って勝手に動き出す作品があるが、最終的には機体は槍に突き壊され、メンヘラとなった主人公は首を絞められ、気持ち悪いと吐き捨てられる。
パイロットである全ての男達を裏切るということ。それはこの仕事をする資格がないということと同義である。どんなにステキな存在に見えたとしても、それが男優、女優同士であったらいけないことなのだ。
好きである気持ちを持つことは良いことだと思う。仕事道具であるチンは感情に大きな影響を受ける。一番の役者魂を持ち合わせている体の部位なのだ。しかし『付き合ってはいけない』のだ。そもそもその「付き合う」という行為にチンは関与しないし、それを形にすることは絶対にいけないことなのだ。男優が女優に私生活へのアプローチをかけることなんてもってのほかだが、女優から男優に私生活への接触を図られた場合も男優は「すみません」とお断りを入れなければならない。それがマナーでありルールでありこの世界独自の法なのである。
この法がなければ、ぶっちゃけた話、AV男優はAV女優が彼女であるのが理想のように思うかもしれない。価値観の共有も世間的な立場も、似た者の存在である二人。一般人からみると、仕事=他の異性とセックスをする、ということはハードルがあまりにも高く、また、世間からの目も気になることであろう。そんなことでも男優女優同士なら『いってらっしゃい』とそういえる。だって仕事だから。それが仕事であることは一番わかり得るのが同業者なのだから。
だがそれは矛盾点も抱えることになる。喧嘩して仕事に影響が出たらどうするのかとか、そもそもの話、職場でフィーリングがあって付き合うということは仕事の絡みでお互いが惹かれあってしまうということだから、相手も自分も、ほかの相手であっても起こり得た、また、これからまた起こりうることなのではないか、だとか。法の有る無しに関わらず現実的な恋ではないというのがわかる。
それが許されないことを知っている。それを知っている僕は、このAV男優という仕事を今後とも続けていきたいと思っている。なにぶん僕はまだ売り出し中の若手だ。まだまだこれからどんどん売れて行きたい、この業界でテッペンを取りたい、そんな気持ちでいっぱいだ。そのカセとなってしまうものは例えどんなに気持ちが昂ぶるものだとしても論理的な判断を下さねばならない。
業界は狭い。男優の数は依然として少ないし、同時に彼女はAV女優としての暦が長く、仕事をしていればいつか会うことになる筈の存在だった。だが僕は番組の冒頭、初対面の女の子たちの中にAV女優を見つけることができなかった。それは僕が彼女と、本当にたまたま、会ったことがなかったのである。だから僕は女の子の8人の中にAV女優はいないのだと思っていた。
それがまさか居たとは!
AV関係者は僕だけだと勘違いしていた!
僕はデートまでしてしまい、かたや夜這いイベントにまで行ってしまった!!
そしてAV男優である僕は、なんと無自覚に、一人の女の子に惹かれたはずが、一人のAV女優に惹かれていて、好きになってしまっていたのである。これは僕の中で『絶対にあってはならない、一番やってはいけない恋』だった。
彼女に抱いていた感情がすっぽりと抜け落ちてしまって、今度はその中に罪悪感と後悔がどっと大きな塊となって、僕の胸の方へ押し詰め寄せてくる。僕はいつのまにか腕を組んで居たことに気がついた。
彼女が、足場の悪い船上でフラフラとしながらも頑張って傷を読んでいる中、僕の胸は今にでも張り裂けてしまいそうなくらい悲観的な感情が詰まりに詰まっていた。
今思えば本当に笑える話だ。ああこれが傷を発表した後の人間の変異なのかと、僕は改めてこの異色な恋愛番組の意図を噛み締めながら、この沖縄で起きた三日間を走馬灯の如く振り返っていた。
1日目、関心を寄せてくれていた中尾さんを誘って次の日のデートに行こうかと思っていたけれど、借金の話を聞いた時に僕は無理だと思ってしまった。この旅では伝える事がなかったが僕はヒモ男だ。金に関するマイナスイメージには敏感すぎる。僕の中ではもうアプローチすることはないなと思ってしまっていた。金銭に関しては自立している子が望ましかったのだ。
初日の食事で話をした他の女の子を振り返ってみて、次に自分がアプローチをしたいのは誰かと考えた。候補として2人。加賀さんと佐藤さんであった。何故この二人になったのかというと、他の女性参加者は、『私の〇〇さんって男優と知り合いなんです』と『AVの何々ってどういうことするんですか?凄いですね』という話ばかりであったからである。前者はただの自己顕示欲。いろんな業界にも通じているアピールであり、それはあまりにも生産性がない。そんな話をしにきてはない。後者は、一見僕に関心を寄せているように思うが、それは単なる職業に対する好奇心であり、最初はびっくりしたからそうかもしれないけれど、後二日でその驚きから恋に発展するまでには時間がかかり過ぎてしまうように思えた。ナンパする時には役に立つことも、(内容は酷い企画だけれども)プラトニックな手法で恋をするというこの環境下では難しいのではないかと思った。
彼女ら二人は他の女の子たちの反応とは別の反応を示した。
加賀さんは酔いが回っていたのもありすごく下ネタトークに盛り上がった。僕はセックスをする人だからセックスの話をしてくれた。大抵はセックスの話に女の子は入って行けないから、これにはびっくりした。もっというと彼女はゲスなので、そんなゲストークを受け止められるのは僕しかいないかもしれないとも思い込んでしまった程、フィーリングがあったように感じた。闇の深さというか、ゲスいこと言ってでも人と繋がっていたい、そんな風に感じさせる健気なところがいい。
佐藤さんも同じく。「私もセックス好きだから」と言っていた。あの時セックスの具体的な話をしたのは彼女たちだけだった。どういうプレイが好きなのか、一番気持ちのよかったセックスはどういったセックスだったのかだとか、そんな話をやすやすとすることができた。他の子は避けているようにも思えた。仕方がない。それが普通だし、それ故に僕は恋人ができなかったからこの会に参加したのだ。彼女たちのようなセックスの話を真っ向から出来る人を探していたのかもしれない。僕は趣味が高じて仕事になった人間みたいなものだから。ディナー後のフリートークでは加賀さんのところには先約がいたので、僕は佐藤さんのところに行った。
僕が佐藤さんを選んだのはセックスの話をした以外にもあった。彼女は終始「八方美人」が過ぎていて我々男性陣の中では人気がかなり低くなってしまっていた。あれが計算でやっていたら相当ゲスだし、逆に人目につくところでそれやるから目に見えるだけでウザい、そう思っている男性陣が結構いた。彼女の男評価は一日の終わり時点ではかなり低かった。だがみんなが嫌う要素に僕は関心があって、「なんで八方美人なんてするんだろう」って思っていた。確かに僕も嫌いだ。けれどもそれには理由があって、それを基にしての行動であるのは確信があった。それをうわべだけで否定するのはあまりにも寂しい。僕はそれを確かめるべく彼女にあえてみんなが口々にしていた言葉をふる。
「八方美人感ヤバイよね」
「私、みんなに八方美人って言われてゲンナリしてるの」
即答した。
どうやらこれは彼女の本質的なところに影響がありそうな部分だから、これから彼女の振る舞う『美人行為』全てに対して繊細な認識と対応をしなければならないなと感じた。現時点で彼女は八方美人という言葉に非常に敏感になってしまっている。彼女はその『美人行為』をプライドを持って行なっている。ちょっと不器用なのかなとも思った。きっと、自分磨きが好きな人なんだろう。僕は彼女のその自己をもっと磨いてほしいと思った。同時に彼女に応援の意思があることを知って欲しいとおもった。だから二日目に彼女をデートに誘ったのであった。
なんと二日目のデートで彼女を誘ったのは僕だけだった。長野さん以外、意外にも綺麗に男性陣が分かれた。この時点では、のちに佐藤さんが好意を向けることになる二宮くんも、現時点では佐藤さんに好意を向けているわけではないように見えた。
二日目のデートでは好印象を持たせられた実感があった。彼女には「前髪あげたほうがかっこいいよ」という、言葉での好意性が見られて、いけるんじゃないかと思った。
彼女の行う美女行為、『手を握る』や、『腕を組んでくる』、『目をまっすぐ見てくる』等々、身体接触によるスキンシップは彼女は帰国子女故の行動であると考え、好意のカウントには入れず全て無視する、それが当然のように振る舞う、所々に拒絶も交えるようにしようとしていた。だが、実際にそれらの美人行為を受けると、明るく陽気で小悪魔的な印象が全く感じられず、腕は組んでくるが押し付けがましいものではなく、さらに僕の方に顔を向けているようで目を見ていない。控えめで切ないような、「悲しさ」が入り混じっているような、そんな感じがした。その悲しさの入り混じった彼女の手が、なんでか、あまりにも自然で、こんな手の握り方にはなにかの親近感があって、それがなんだか妙に心地よく感じてしまって、僕はこの子を彼女にしたいなと、その時思ったのだった。
僕はテンションが本質的に鬱で根暗なので、彼女のような躁気質の元気で明るい子が好きだ。言いたいことはその場ですぐさま言えるようなハッキリとしたことじゃあないと許せないような性格の子。そういう子といつも一緒にいたいと思っていた。英会話というスキルもある。互いに知らない世界を共有しあうのも楽しいはずだろう。また、彼女は知見が多く、親は厳しそうだけれども、育ちもよくしっかりと教育を受けてきた子という印象を受けた。僕のダメンズ感を治してくれる可能性が高くて付いて行きたくなった。
天気は煌々としていたけれども、声のトーンを落として確実に会話を落とし込んでいけばいい。そうすれば少なくとも現時点での僕の評価は高くなる、はずだった。
彼女が、僕とは絶対に付き合えないという事を抱いているとは知らずに僕は
「じゃぁついてくよ?」
といった。
回答ははぐらかされていた。
(業界云々関係ない話。女という生き物の残酷さをここで見抜けなかった自分はあまりにも情けない。女の子は、気持ち的にノーである時に、うんともすんとも言えぬ微妙な返事をする場合がある。ここで押して、大丈夫であれば、『確実なイエスサイン』が出るはずだが、ダメな場合は『確実なノーサイン』を出すことは絶対にしない。これは天地がひっくり返っても変わることのない女という生き物の性質であり、公式だ。『確実なイエス』以外の反応をされた場合、何かしらダメな要素があるということなのだ。僕は彼女のそれを見抜けなかった。もうこの時点で負けが確定していた。何故見抜けなかったのか。非モテコミットだろう。知らんけど。)
男優という生き物は、禁忌をおかしてきた先代の類に倣って、というより、無意識にも女優に惹かれてしまうものなのか。気があう。価値観も合いそう。それに彼女はセックスが好きときた。話しも自然とはずむし、向こうも僕に対する本当の意味での職業偏見がない。
当然だ。だって彼女はAV女優なんだから。同じ職場の人なんだから。
まったくもってアホな生命体だなと思わざるを得なかった。どんなに僕に人間的魅力があって、彼女が好意を寄せる何かがあったとしても、男優と女優だから付き合えない。好意を抱いてしまって申し訳ない気持ちすら抱いてしまう。
実は彼女の傷の発表前に僕は彼女直々に傷の告白をされていた。
と、言ってもそれは二日目の昼デートや夜這い打診イベント時ではなくて、彼女が傷を明かす直前の直前。クルーザーの二階で佐藤さんが二宮くんと会話をしているときである。二日目の夜、部屋に入れてくれなかった理由が知りたかった。それは単に僕のことなんか目にもないちっぽけな存在だからなのか、それとももっと別の理由があるのか。きつくてきつくて仕方がなくて、あの夜僕は飯を吐き続けていたのだった。
「なぁ」
彼女は僕が声をかけるや否や「来てしまったか…」と口で呟いたかのようなリアクションを示した。目は合わせてはくれなかった。ウザったかったのかもしれない。わからない。だが、彼女は二宮くんとの会話を一旦やめて僕のところに来てくれたのだった。ただ、目を合わせることなく、俯いたまま、寂しそうな笑顔だった。
「なんで俺をあの時、部屋に入れてくれなかったのか、それだけ教えてくれない?」
彼女は僕の横につき、僕の二ノ腕を優しく掴んだ。しかし喋らない。僕はそのまま続けた。
「頑なにして言えないのはそれは傷に関係あることなんだね?」
「うん」
「タローちゃんなら、わかってくれる」
ああ、なんていう僕だけにしかわからないフライングの傷告白だろう。笑顔なのだけれどやっぱり僕の顔は見ていなくて、ずっと俯いたままそう一言だけ残したのだった。
「あぁ、そうだね。わかったよ」
僕は、僕の胸を圧迫していた黒い救命胴衣を脱ぎ、クルーザーの一階へと降りていったのであった。
彼女の発表を聴き終えた後、僕の中で蠢いていた、これらの感情と記憶は、いつのまにか船を揺らす波々に飲みこまれ、沈んでいった。頭上に広がる群青の晴天に体ごと吸い込まれていってしまいそうなくらい、僕の中身は空っぽになったような気がした。
僕の沖縄の恋の旅は意中の子はまるで初めから存在しなかったかのような幕の閉じ方となった。クルーザーの上ではもう消化試合みたいなものだった。二日目は佐藤さんばかりで、雰囲気がうまく掴めた中尾さんとの接触は全くしていないし、他の女性陣とも、フラグ建設になるほどのことはできなかった。第一印象による女性評価も外見的特異性のない僕には、恐らく票は集まっていなかったと思う。故に僕は誰かと繋がるには自分から声をかけに行かねばならず、それには相応の時間が必要だった。
船にいる時間ももうほとんどなかった。結末が確定していた僕はもうヤケクソで、用意したマジックをやるだけやりまくって、みんなを弾ませ、フラグが確立しそうなカップルを支えるために終わろうと思った。僕個人が抱くこの旅の理由はもうない。あとはこの後の時間で何を残すか、沖縄から出たあとこれからどうして行くか、それだけ考えていた。
愛の告白は山田さんが執拗に狙っていた中尾さんにした。佐藤さん以外に接触があったのは自らやってきてくれた中尾さんだけで、だいぶ不思議ちゃんだけれども、初日に僕のところに彼女自身から来てくれたのは涙が出そうになるくらい嬉しかった。それを告白という形を使って改めて伝えるのが良いと思った。あからさまに彼女から逃げた僕は実に滑稽な姿を映し出すことになるが、あいにくこの時の僕には羞恥や無礼さという言葉はすっかり抜け落ちてしまっていた。
帰路へと動き出したクルーザーパーティで「中尾さん」に声をかけたら、山田さんと会話をしていたのにもかかわらず僕の方に笑顔で近寄ってきてくれたので、もしかしたらいける可能性が残っていたのかもしれない、と思って僕は唐突な意地の悪い行動を確定的なものにしようと思った。山田さんに対する酷い行動ではあった。山田さんは身体接触を図ろうとすごく必死になっていて、なんだか見てられず、彼女を連れ出してしまった。
「そうか…君はやっぱり男優のことが好きだったんだね…」
僕の方へやってくる中尾さんを見ながら呟いた山田さんのその言葉が、妙に嫌らしい高揚感を僕に与えていた。略奪愛が好きな奥くんとオフの時とても仲良くしていたので、もしかしたらそれが乗り移ってしまったのだろうか。くっつけても美味しい、振られてもきっと面白そうだ。僕の体の中からは主観が無くなっていた。船の揺れの感覚が取れないのか、気持ちが綺麗さっぱり消えてたお陰なのか、何も考えられない。脳細胞の核が全部引っこ抜かれて質量が軽くなってふわふわしたかのような気持ちの中、漁港に到着したクルーザーは停止して、僕は沖縄の地へ再び足を踏み入れたのであった。赤く黄色く肌を犯していた日差しは随分低くなっていて、いつのまにか入り混ざってオレンジ色にへと変わっていた。
教会での結果は、長長長長長長考の末、山田さん。良い選択だった。タカくくってた自分が最高にダサくて、僕の中でとても清々しく良い負け方が出来たように思えた。
「男優なんだからもっとシャキッと告白せい!」
撮影が完全に終わったあと、佐藤さんが僕のところまでやってきて、直接、そうド突きながら言った。彼女はようやっと、沖縄に来てはじめて、僕と目を合わせたように感じた。
「緊張しちゃってさ」
リアラブの沖縄の撮影の全行程が終了した。
この数時間後、僕が号泣することは誰もが想像するに容易いが、側から見たらそこまで泣くほどのことなのかと少し疑問に思えるくらい泣き続ける僕を、その羞恥失態の姿をNetflix社の無数のカメラに収められつつも、あんまりにも酷く煩く永遠と泣き続けるものだから、矢口真里さんが「君は少し黙っててwww」「うるさいw」「うざいうざいwww」と僕に直接ツッコミを入れることになる………
というか、なんで全て終わって部屋飲み反省(主に僕の『慰め』ヤケ酒会な)男子会している、わりとそんなに広くない夜の男部屋に、矢口さんや、Vカメ陣、ディレクター、プロデューサーの方々も混ざって飲み(飲みつつもカメラは回し続けるプロ意識)しているんだ?
…という状況になろうとは、この時どんなに頭が冴えていようとも、予想することができないのであった。
矢口さん「うわぁ…これは淳さんいなくてよかったぁ…」
QB「びえええええええええええんうええええええええええん」
矢口さん「いやだからうっさいww」
淳さんが受験生で良かったあの夜の出来事は、カメラに収められたものの、本編で使われることはなかった。
無料視聴は
こちら