【北海道ナンパツアー3日目】唯白く知れぬ孤立
- 2015/12/01
- 04:29
その日は朝から遠いところに行くために10時に起きる必要があった。朝まで連れ出しをしていて戻ってきた私は、早急に寝る必要があったが、眠れる気にもなれず、逆に今日この日あった出来事をまとめるという気にもなれず、自己嫌悪に陥るという気にもなれず、一面に張った湯船の中で私の呼吸と微動によって簡単に揺れ動くその水面と、立ち込める湯気をただ見ていただけだった。私加減の微温湯が骨をまとう筋繊維に付着した疲労感をゆっくりと溶かすように温めていった。
fさんの運転で我々一行は観光をしていった。その車移動の間に私は眠っていた。
有名どころの蕎麦屋にいく途中、トイレ休憩ということで起こされたコンビニの中でふとhさんが私に話しかける。寝起きで目がまともに開けない私ははじめ誰に声をかけられたのかよくわからず、驚いていたような気がする。
「QBさんってさ、首猫背だよね」
目をこすり、意識を回復させていきながら彼の質問に答えていく。
「あぁ…そう、だね…結構前から、猫背って言われてた…」
「絶対直したほうがいいよ!印象すっごく変わるから!」
「ま、まじすか…てか治ってなかったのか…俺」
中学の頃から猫背で、しかし武道をやっていた私は適所ではそれなりに意識はしていたのだか、実は全然治っていないらしい。これはとても恥ずかしいことを指摘された。
「うん!なおってない!笑 俺も首猫背で悩んでたらか結構気になっちゃったんだよね」
その後、hさん流の首猫背の直し方をレクチャーしてもらった。まず上を向く。そして顎を戻すように前を向く。首猫背のときは視線が斜め下方向に向いているが、改善されると視線が高くなったように感じる。私はこの時以降、事あるごとに上を向くようになってしまったのはhさんは知らない。(悩まれている皆さんも是非上を向いてみよう)
有名らしい蕎麦屋で一杯食べ、中毒性のある?湧き水を堪能、火山活動で何度も変形している湖と天文台で北海道の自然を肌で感じ取り、温泉に入った。
私にとって温泉は生き甲斐である。銭湯で1人で浸かり、何も考えずぼーっと過ごすことにこの上ない幸せを感じる人種である。微温湯なら尚よしだ。長風呂し、ゆっくりと時間が流れていくのを湯の音…人の出入り、滝だったり蛇口だったりする給水音と溢れゆく排水音…それらを聞きゆったらと過ごすのが最高である。
まぁ仲間とゆっくりと話しながら、微温湯を堪能するのも折角のツアーなのだから悪くはない。むしろ今はその方がいい。普段リアルでは関わることのない営業仲間との生活だ。ならばその非日常を楽しみ味わうべきかなと思った。しかしこの温泉は硫黄系統の温泉であったため、金属類のメガネは外していかねばならなかった。そのため銭湯の中では人の顔が全くわからなくなってしまい、誰が何処にいるのか全く分からず、新たな望み虚しく1人孤立することになった。
シャワーを浴び、露天に二度目の入浴をしようとすると先に入っていたbさんに声をかけられた。なんて声をかけられたか、あまり覚えていない。いつの間にかな会話を続けていくと彼もまた、どうやら温泉で長風呂を堪能するのが好きであるらしかった。だからかはわからないが話が弾んでつい時間も忘れ、会話を続けていた。
彼はイカツイ風貌の割に爽やかな笑顔で話す人でコミュニケーションにおいて嫌悪感や不快感といた抵抗を全く感じさせない。恐らくだが会話から人を楽観的な気分にさせる性質を持っている。彼の軽やかな笑顔と言葉がこちらの気持ちをも軽くさせてくれる。だが彼自身が楽観的な人間なのかはよくわからなかった。彼は彼が体験した面白い経験談を色々と話してくれるが、彼がどんな人物なのかということは自分からは一切はなすようなことはなかったからだ。結局私は最後までbさんという人物がどんな人物であるのかを知ることはなかった。彼の信念なのか本質なのか単なる無意識によるものなのか、彼の人物像を私なりに想像しながら会話を続けていた。
2人で談笑している途中、fさんが服を着たまま露天にやってくる。
「もうみんな待ってますよ!レンタカー間に合わなくなるんで急いでください」
「げっ、そんなに経ってたのか!」
急いで着替えを済ませ、みんなに謝りにいった。ロビーのソファーにみんないた。私は全員に謝ったあと、また別に一人一人に個別で謝った。謝るたびに何故だろう。私は空白になるのを感じていた。真っ白のものが胸の奥を一瞬にして覆っていくような感覚。
「流石に長すぎだから」
kさんはというと私の謝罪には目を合わせずにそういった。誰よりもキレていた。胸の奥がより濃く白くなっていくのを感じた。その白さの中で、彼に対して申し訳ないという気持ちよりも先に、この人と私は合わないんだなとか、この人もまた私のことが嫌いなんだなと、別の悲しみが前面に押し出されていた。私は誠実に反省をしていない自分自身に驚いた。
ああそういえば。今日は宿泊する場所が昨日とは変わり、シンジさんとkさんと3人で寝泊まりをするのだった。と、fさんの飛ばす車の後部座席で揺られ、不安を抱きながらまたも眠りについた。シンジさんが道中、私のことについて何か言っていたような気がしたが、また「QBから金を巻き上げまくるぜ」的なことを高らかに宣言しているのかなと思い、眠りから覚醒して会話に参加することはやめておいた。
ホテルにつき、着替えをすます。これから晩飯だ。何処へ行くのだろう。なんだかまた高い場所に連れて行かれるような予感がした。なので財布の中身を確認した。こう、適時今自分がいくら持っているか把握しないと貧乏人は身の丈にあった生活を営むことができない。そうして私は青ざめた。
(諭吉が野口二枚に退化しているぞ…)
(昼時には、一葉いたよな…?あれ…いつの間にこんなに使ってたのか…)
脳内で計算をしながら辻褄を合わせていく。ああ間違いない、私は北海道に来てからというもの、すごい勢いで金を消費してっている。
「QB、ラム肉食いに行こうかと考えてたんだけど大丈夫?」
そんな時、ふとシンジさんが私に聞いてきたのだった。
「ラム肉、ですか?いくらするんです…か…?」
ラム肉を食べたことはない。臭いということしか聞いていない。おいしく食べれるのか否かという心配は確かにある。だがこの時の私はそんなこと関係なしに反射的に値段について聞いてしまっていた。多分シンジさんもそのことはわかっていて、私にそれを聞いたのだろう。
「5000円くらい」
「まじですか?」
反射的に反応していた。
(いけないやん!)
みんなはいけるのか?行けそうにないのは私だけか?みんなの金銭状況をよくよく思い返してみる。ああだこうだでみんな旅行をしっかり満喫できるだけのお金を持っているのがよく思い出さずともわかった。私はこの瞬間、集団内で特異的な孤立をしていることに気がついた。
「別に行くことに強要はしない。」
「もっちょい安くはならんのですかね…?」
「まぁグレードは落ちるけど3000円代とかになるかなぁ」
「そうか…そうですよね」
下ろせばいけます。
また初日と同じようなことを言おうとしていた。だが私には言えなかった。私の中ではもう限界がきているのだということを知った。
kさんはというと今から行こうとしているラム肉の食べ放題のお店へ電話で予約を取っていた。私のことは気にせずに、ただただ淡々と電話越しの店員さんと会話をしている。電話での丁寧な口調が彼の職業や仕事の内容を私の中で想像させた。シンジさんはというと表情は曇っていた。何かを考えながら、決まりきっている現実に対して何やら後悔をしているような。そんな顔をしていたように感じた。そう肌で感じただけで実際は2人を直視出来ずにいたのだった。
「わかりました!自分1人で飯食ってきます!食ったらそのままストに行けますし」
その空気に我慢ならずに私はシンジさんにこう伝えていた。仕方のないことだ。もっと金を稼いでこなかった、労働を一切する気のなかった、いや、する気が全くない、怠惰の限りを尽くしている私が悪いのだ。その仕方なさというものを受け入れることは自分の中ではもう慣れっこで、今回もまたすぐにこの現実を受け入れることができた。kさんはというと私の方には一切顔を向けず、しかしシンジさんと私のやり取りはきちんときいていたようで、「6人で」と電話越しに伝えていた。
するとシンジさんはkさんのそれを遮るようにしながら言った。
「いや、ここは俺が出すわ。k、7人で」
それを聞いた私の心は、何故かまた、空白になっていた。白く白く、ただひたすらにまっ白くなっていた。反射的に「ありがとうございます!ほんと、すみません!」そんなようなことを伝えていた気がする。気がするというのは、それをもしかしたら伝えていなかったんじゃないかと、言ってすらなかったんじゃないかと、今になっては思うくらい、この時に発した言葉が薄くペラペラなものであったからだった。その私自身が発する薄くペラペラな言葉に何か不審な物があるように感じていた。それはなんなのだと、喜びとすまなそうな顔をシンジさんとkさんに見せながら自信を問い詰める。真っ白な空間に一つの疑問が湧き出ていた。
(すみませんとか、ありがとうってどうやって言うんだっけ)
ジンギスカンをシンジさんに金銭的にお世話になりながら食べた後、ストに出た。
何声かけ目だったか。この日はメモを付け忘れてしまっていた。5いくかいかないか、それくらい声をかけ終わった後に、彼女を見かけた。
黄色のバッチをリュックに付けている女の子が横断歩道を渡りあるいている。このバッチには心当たりがあった。私は上を向き、首を下ろし、視線と背筋が正されたのを確認して、すぐさま彼女の背中に張り付いた。
(やはりタワレコバッチ。そしてこれは…マキホルの新譜のバッチ、プレンティ、おおこれはバンプ…)
間違いない、ロキノン系の女子だ。胸が高鳴った。私の得意分野である。すーっと斜め前に位置取り、スッと振り返り、彼女の耳元に語りかけるつもりで言葉を放った。
「ノーミュージックノーライフ」
コレだけを伝えた。
お洒落な伊達眼鏡の大きな瞳がオープンした。
音楽の話題を引き出しながら自己開示。彼女は待っている相手がいるらしくあっさりと連れ出しの打診が通った。制約は1時間。
弾丸即を決められるようカラ館を始め打診、しかし彼女は悩んだ挙句友達がバイトしているかもとの事で却下した。それから向かい側にあるジャンカラを指定したが、カラ館打診時に個室を警戒をされたようで、結局その隣にある地下へ続く、なにやら高い匂いのする喫茶店に入ることとなった。結果論だが、カラオケではなく先に満喫を指定してやればよかったかもしれない。歌いたくないグダもある訳だし、歌で逃げられる可能性も否めない。
階段を下り店に入る。黒を基調とした店内の照明はキャンドルで灯されていて暗めになっており、とても良い雰囲気だ。おまけに丁度、人が少ない。これが個室のバーとかだったらもっと良かったのに。
店員さんに好きな席に入っても良いと案内される。悲観しても仕方がないからうまく仕上げることのできる場所はないか探した。店員からはちょっと見えてしまうが、入ってきた客からは見えない死角の半個室を発見。しかし対面4人席。大丈夫か?いや行ける。私はそこへ足を運んだ。
一杯700円という高さの珈琲に目を白黒させながら彼女と会話を開始した。ここでは即は出来ないから、即をする場合、この場で充分に仕上げた後、彼女にアディショナルタイムを発動してもらうほかなかった。難易度は激高だった。来たるべく先約をドタらせなければならなかった。そんな最高の食いつきをこの私が彼女に与えることができるのか、未知の挑戦だった。
趣味の話から彼氏のこと、今までの彼氏の人数から、セックス観を引き出していく。時間制約があるという焦りもあったのか、恋愛の話から唐突にセックスについての話題を出してしまった。
「君ってあまりセックス好きじゃなさそうだよね」
だがそれが功をなしたのか、彼女の核心に迫る部分をいち早く引き出すことに成功した。彼女はDV経験があったのである。悲しい過去に自分なりに同調しながらうなづいていく。辛かったね、大変だったね、悲しかったね。そんな言葉を多用していく。
「でもセックスもまた大切なことだよね。◯◯も大切な人となら抱き合っていたい、そう思うでしょ?」
「うん…」
俯きながら彼女はそう答えた。
「男ってよくわかんない」
彼女の本音が漏れているような気がした。
「別の生き物だもの、なかなか理解しがたいよ、それは」
そう同調を続けて彼女を引き出した後、ばれぬようスマホを取り出し、ラインにて報告を打ちながら時間を確認する。入店から30分経過していた。彼女の恋愛とセックスにおける核は引き出せた。ここから攻めに転じようと私は口を動かしていった。
「男の恋愛ってさ、ああだこうだでやっぱり性欲が先行しちゃうんだよ。男の愛ってぶっちゃけやれるかやれないかってやつ」
「そうなの…?」
「うん、ショックだよね」
「そうだね…しょっく」
「でもそれはしょうがないことなんだよ。男ってそういう生き物だから。」
「うん…」
視線がどんどん下の方へ下の方へ流れていく。落ち込んでいくのが見て取れる。
「だからこそなんだよ。女の子は男が性欲抜きで自分のことをちゃんと愛してくれているのか、しっかりと把握しなきゃだめだよね」
「というと…?」
「セックスし終えた後だ。し終わったあと、男の愛に愛があるかどうか見ることができる。優しくしてくれるかどうか、ずっと一緒にいてくれるかどうか、男のそれを知るためには男の性欲を実際に取り除いた状態で見る必要がある」
「そ、そうなの…?」
「うん、だからよく確認してみ。例えばやったあと後戯してくれるのかとか、態度変わってないか?とか。やった後にさ態度めっちゃ変わって、あれコレジャナイ感が出てきちゃったこと今までにない?」
「あ、ある!」
「それだよそれ、今まで辛かったのは」
声が明るくなっていた。彼女は何か納得したような、何かが繋がったような、さっきまでの落ち込みの顔ではなくなっていたような気がした。私の心もなんでか晴れていたようなきがした。
「ああそうだ、番号教えてよ。ライン」
唐突の番号打診をする。
「いいですよ」
QRコードで交換をする。
「最近課金しようかなって悩んでるんだ。だからそのサンプルじゃないけれど自分1番のお気に入りのやつ送ってみてよ。」
「えー、わかりましたwどれにしよっかなー」
そう彼女にラインを入れさせる。
「えー、悩むなぁ、どれにしよう」
スクロールをしながら悩む彼女。
「そんなにあるの?wちょっと見せてよ」
「いいですよー」
ここで席を移動し、彼女の隣へ行く。驚いた表情は確認できなかった。ともかく隣に行くことに成功した。あと20分。彼女のもち合わせる可愛らしいスタンプの数々を2人で画面を覗きながら選んでいく。事故なのか必然なのか、一瞬手が触れ合う。ちらと彼女の目を確認する。黒目がまるで小魚の様に泳ぎ回っているのが確認できた。
スタンプ選びでワイワイしながらあと15分。恋愛観の話を再度行うことにした。
「◯◯って甘える派?甘えられる派?」
「んー、今の彼氏には甘えられます」
「そーなん?ちょっと手出してみて」
「えっwなんですかw」
「いいからいいから、はいパーにして、はいこっちの手と合わせて、はい握ってみましょー」
「なになにwそのキャラw」
彼女が私の手を軽く握ってくる。そこで私も彼女の手を握り返す。
そして彼女の目を見つめる。
瞳の湖で激しく泳ぐ二匹の黒い小魚。
2秒ほど。
彼女の手汗を感じた。
「わかったよー」
目をそらし手を離す。
「な、何が分かっちゃった?!w」
「え?甘えたがりってのがw」
「会ったばかりなのに私を知りすぎですよw」
笑った。
周囲を確認する。店員はコップ拭き。他の客は死角。入店客も、いない。
「そうそうそのiPhoneのカバーさ」
ここで再度注意をiPhoneにそらさせる。
「あ、はい」
彼女の視線が下に落ちていく。
キスギラ。
「んっ…」
彼女はよくわからない音を発しながら私のキスを受け入れる。3秒ほど、長いような、短いようなそんなキス。終わりはお互いが離れるように終わっていた。
「スッゲー緊張してんじゃんw」
「いやそりゃ!いきなりだもんw」
もう一度試みる。
今度はグダ。
「ダメです、彼氏いるんですよ、私」
「そうだ、彼氏は?もうそろそろ時間じゃない?」
「え?」
彼女のアポ待ちを確認させる。私は彼女と隣り合って座っていた席から対面に戻った。
「多分もう彼氏も約束終わってその辺にいるんだろう?流石に俺と一緒にいるのがばれたらヤバイだろうし、別々で外に出たほうがいいよ」
「あ、はい、そうですよね」
彼女は困惑の顔色をしていた。
だが帰りの支度をしない。
また対面で話に戻ってしまう。
今度は音楽の話題。どこどこのライブに行ったのだとか行くのだとか。そんなような話。
「そういや彼氏もロック聞くの?」
「そうなんです。趣味が同じで」
楽しそうに語る。時間はどうだ?またもこっそりとラインで確認をする。約束の1時間は15分も過ぎていた。
「そうなんだ。いいよね、趣味が同じって。あ、もうそろそろ時間じゃない?」
先ほどとまた同じことをいった。
彼女を先に帰し、ゆっくりとコーヒーを堪能した後、ラインで状況報告。シンジさんからの合流申請を受け私は再びストに戻った。寒くて寒くて仕方がなかった。合流やソロを繰り返しながら、もうヒト連れ出しをした。ガールズバーの店員。30分だけ時間ある。2人でカラオケに入った。半分は和み半分は熱唱して隙をついたキスをして二回目を拒まれバンゲして外に出た。カラオケ屋から出ると待ち合わせの男が既に待っていて私はその男に会釈して別れていった。ガールズバーの店員はその男と手を繋いで寒い闇の中に消えていった。その後も続けたが、アポ取りつけを二件だけしてホテルに戻った。
その夜は私とyさん以外のみんなが女の子と肌を重ねあっていた。