【北海道ナンパツアー2日目】絶望と入れぬ扉
- 2015/11/29
- 21:51
連続で鳴るラインの着信音でようやく目覚めた。初日という事で朝までストをしていたからか、疲労がたまり、昼まで寝ていてしまったようだ。シンジさんfさんbさんで昼飯にスープカレーを食べているらしい。髪の毛をジェルで適当にセットし、すぐさま彼らの元へ向かった。
初めてスープカレーというものを食べて、確かに美味しかったけれど払うときの財布の残金を見て1500円も払うほどかなと一瞬浮かび、なんだか悲しい人間だなと自分自身に悲観した。そういえばシンジさんは私のスト値上げのコーディネートを完了させてからというもの
「俺はQBを破産させるまで金を使わせる笑」
とみんなに高らかに宣言をしていた。昨日の下りエスカレーターでは口を開けなかったが、流石にその発言には
「ほんまに勘弁してください笑」
と全自動でツッコミを入れていた。
スープカレーを食べ終わり、bさんはホテルで準備をしに、fさんはシンジさんにノルマを課されそのまま昼ストに出かけて行った。
「駅まではそんなに距離はないし、真っ直ぐだから歩いていこう」
私とシンジさんは1000円カットで有名なQBハウスで納得のいく髪型に仕上げるため札幌駅へ向かうことにした。氷点下ギリギリの朝の札幌すすきのは、寒さで肩を窄めさせたが、その雰囲気は涼やかで居心地の良いものを感じさせてくれた。ここは北海道随一の飲み屋街とのことだが、東京の歌舞伎町と比べるとそこまで淀んだ空気ではない。ゴミが散らばっていないし、路地裏のような細く見通しの悪い道は少ない。道行く人々の雰囲気も疲労を超えて病んでしまった、というようなことは感じられなかった。染まっているようで完全な闇に染まりきれていないような、そんな雰囲気を私は感じていた。
昨日の夜ストでは一番ゲをした。ただどんな子だったのかどんな話をしたのか今となっては思い出せない。番号だけはあって、恐らく即れなそうだなという雰囲気は間違いなくあって、和むだけ和んでバンゲして放流をしたのだと思う。一連れの後、シンジさんと合流、そこから2人で声かけを行っていた。
「昨日2人で行ったあの子は果たして行けたんでしょうか」
「あれはダメだよ」
「ですよね。」
「俺はむしろ途中からきた男の方に興味あるわ笑」
二連れ目のシンジさんと連れ出した1人の女の子は途中で連れの男を召喚。即は無理と判断、即狙いではなく女:男、1:3のカオスを味わうこととなった。
「どうすればよかったんでしょうか…」
「んー、どう転んでも無理目な感じだったけどね」
私も無理目な感じというのはわかっていた。なんとなくだが、ああこの子は即れないんだろうな、ホテル打診してもついてこないんだろうなという雰囲気がだんだんとわかってきた。ただ、その無理目な雰囲気からどう行動を変えていくか。例えば直ぐに放流するのか、もう少し粘るべきなのか、話題を変えていくべきなのか。そういった判断がまだまだ私には甘かった。
「そう言えば女の子に説明する自分の設定ってシンジさんどうしているんですか?自分はインストラクターで自分とは先生とお客の関係ってちょっと焦りましたよ笑」
「嘘はつかないようにしてる。ナンパとは言ってないだけで、例えば先生とお客の関係って、伝えた事に嘘はないでしょ?」
「ああ…確かにそうですね…!怪しい事はいってないや。あぁ…自分は嘘つきまくりだった気がします」
「そうだよー!職業のときの俺のフリとかさ、絶好のチャンスだったのに。人にはAV男優である事隠してるの?」
「あれ、いってよかったんですか?別に隠しているわけではないんですが、反射的に今の本職の方をつぶやいてしまいました。」
「むしろ言った方がいいよ。珍しいじゃん、男優って。他の人にはない君のアイデンティティの一つだよ。そこから性の食いつきあがるし、下ネタの話題が当たり前の空間が生まれるし、かなりおいしい。」
「そうだったのか…惜しい事をしてしまいました」
並行トークで昨日の営業についてシンジさんからのアドバイスを頂いていく。メモなんてない、録音機なんてない。無茶な話だが、脳内メモ帳と脳内録音機になるべく情報に漏れがないよう必死に書き込んでいく。(その必死さ虚しく、結局漏れてしまったから、今嘆きながらブログを書いている。)
「…それから、女の子との会話が適当すぎる。」
「適当…ですか?どういう事なんでしょう?」
確かに私の声かけは適当だ。決められたルーティンはない。その場でなんとなく決めた言葉をパッと当てて、自己開示してパッと浮かんだ言葉を当てて自己開示して、ところによってぼけたり突っ込んだり…そんなのを繰り返していた。芸人のように笑える要素があるのかはわからないが、とにかく雰囲気を軽くしよう軽くしようと努めていた。そんな適当というのは営業においてはダメなのか。意識して行ってきたことを指摘され、価値観がガラリと変わったというよりは、なんだか納得仕切れず、もしかしたらこれは重要な問題でもないのではとも思っていた。
「雑、なんだよ。会話が。雑すぎて目の前の相手を見下しながら話しているように見える。失礼なんだよな。」
雑、そして見下す…。
そんなつもりは毛頭も無かった。私にとっては至って普通のコミュニケーションをとっていただけで目の前の相手に、こいつくだらねーwwwとか即系乙wwwとかぶっさコミュ抜けよwwwとかそーいう煽りを抱いた事は一切ないつもりだった。いや、まさか潜在意識では目の前の相手を貶しているのか?人から見た私のコミュニケーションは実は失礼だったのか?わからない…。だが、人の無意識とは意識する事のない意識なのだから、仮に私が目の前の会話している相手を貶しているのが本当だとしても、私はそれに気づく事はないし、悪気があって貶している訳ではない。自分にとってはさほどなものであったためか、重要な問題ではないような気がして、イマイチぴんとこなかった。
「どうすれば良いのでしょうか」
そもそもの原因がよくわからないのだが、外から見た客観的な意見とは凄く大切な事である。それに何人もの営業師を見てきたシンジさんだ。私に対してそれが悪いというのだからその部分はきっと、悪い部分なのだろう。だからよくなるために具体的に改善案を求めた。
「丁寧に接する事。」
普通のことを言われた。具体的にどうやって丁寧に接すればいいんだよ…
んや…そこは自分で考えないとダメ、ということなのか…?晴れない顔の私を置いてシンジさんはつづけていう。
「例えば赤ん坊をあやすように女の子に接する事だ。泣かないように怪我させないように。赤ん坊を抱いている時って自然と丁寧に接するでしょ?それと同じくようなコミュニケーションを意識する」
「はい」
はいと言いながらやはりよくわかってなかった。赤ん坊をあやすように…?それこそ相手を見下しているような…?人との認識のズレを感じているのを感じる。そして一種の不信感を抱いていた。ただその不信感も、別に大した問題ではないんだろう、そう私の脳は判断していたに違いない。だからこの指摘に私は混乱していた。混乱していたが、ともかく今の私は女の子に対して雑なコミュニケーションをとっていて、更には不快感を与えてしまっている、らしかった。今宵声かけする際にはそのイメージを忘れずに意識に置いておかねばならない。
少しの間ができた。5秒ほど。私の「はい」、という言葉から次の話題までの空白。私は今言われた事を内省して整理していたのだろうか。よくわからないが、少しの間があった後、シンジさんは次の指摘をしてくれた。
「君って人といると性格が変わるよね」
「はい、そうですね。まちがいないです」
図星を言われたように思えた。
私の中には鬱人間と躁人間がいる。1人の時は大抵鬱だ。鬱だからツイッターでよく意味のわからないツイートの更新をしている。だから初めて会うとよく驚かれた。よくしゃべる人なんですねと。ツイートの内容とはまるで真逆な人間ですねと。落ち着きはなく簡単に人と話していく。ぱっと見コミュ障ではないようにみえる。
だがそう見えるだけで、躁人間の私にも欠点がある。同時に鬱人間の私にも。躁人間の欠点は鬱人間であるときのメリットで、その逆も然り。だからこの二種の人格が私の中でお互いに共存しあい、欠点を利点でカバーできるように、どうにかバランスの良い人格に変えることができないだろうか、と常々思っていた。
「だけれど、君はコミュニケーションをとっている時、ふと急にプツンと意識が飛んでしまうことがある。」
「意識が飛ぶ?」
今さっきの、5秒程の少しの間のことだろうか。
「集中力が切れるんだよ。相手から意識が完全に逸れた状態になる」
「なんと…やばいですねそれ…」
「そう。君は普段家にいるわけだから、多くの人々と関わっている訳ではないだろう?だから人と関わることに関して慣れていないんだよ。その集中力切れが雑さを生むキッカケにもなってる。」
「そうだったんですね…でも確かにそうですね、会話が盛り上がっても急にプツッて話が切れる感覚は何度も経験してます。沈黙が嫌いって訳じゃないんだけれど、自分の中から言葉が急に消えているみたいな」
ちょっと絶望した。自分自身にだ。
私はコミュニケーション能力がない鬱人間であると同時に、コミュニケーションを積極的に取ることのできる躁人間でもあるから、少なくとも多少はコミュニケーションが取れている方だと思っていた。だが、この意識が飛ぶというものは、私は人との会話の中で断続的に躁鬱が切り替わっていること意味する。コミュニケーション能力の低い鬱人間が会話のなかで現れ、コミュニケーションを阻害しているとなれば確かにまずいなと思った。
「でも無理じゃないですか…?集中力なんてずっと続けて出し続けられるものじゃないですよ…」
「君普段してないからね。集中力…会話を行う上で必要なエネルギーを出し続けることってナンパする上では普通の事だよ。」
「ま、まじすか…」
「うん。このエネルギー放出の持続を俺はナンパ基礎体力って呼んでいるんだけど、QBにはそれが圧倒的に足りていない。このエネルギーは単発的に出せるものではなくて、常に会話を続けることや常に人との関わりを持ち続けるという習慣の輪の中でしか生まれてこない。ゼロから1を踏み込むことが難しいように鬱人間が会話を無理にいきなり取り繕っても上手くはいかないんだ。」
「しんどそうですね、今の自分にとっては」
「納涼船で連れ出したでしょ、あのアポ、どう思った?」
「どう思った…?そうですね、とにかく凄く悔しかったです。」
「あんなようなアポをあと10回はやらなきゃいけない」
「…めちゃめちゃしんどいってのがよくわかりました。つまりナンパ毎日しろって事ですね」
「そーゆーことだよ笑」
どつかれた。
割と大きめに吹っ飛んだ。
「QBは本来コミュニケーションに使うべくエネルギーを別のところで使ってしまっている。そしてよくないことにそれが習慣になってしまっている」
「それって…」
「ツイッターだ。」
「ああ、やっぱり」
「だからQBはツイッター禁止にしたほうがいいかなとか思うんだよ笑 QBにとってツイッターはただ感情を発散させる場所として自分自信が満足しちゃってるから。」
「ひいぃ」
「まぁでもアカウント消せとかそーゆーことはいわない。禁止も正直酷だろうし…てことで代案ができたんだけれど、どうする?」
「聞くだけ、聞かせてください。その代案」
「常にふぁぼを貰えるような投稿をする事」
あっ、これ。シンジさんのブログでやったところだ!
「おお、人に見られることを意識おくわけですね!」
「そーだね。君はそこに意識おけばツイッターからも習慣が変わっていくと思う」
「なるほど…」
「それと…」
不敵な笑みを見せるシンジさん。
「なんですか…?」
「フォロワーを簡単に増やせる手段がある」
「えっそれ気になります笑」
「有名なアカウントにケンカを売ることだ」
「ええぇぇ笑」
そんなような冗談なのかマジなのかの話も交えながら、私達は札幌駅についていた。なるほどな、と思えたり思えなかったり、色々あったのだが…とにかく情報を詰め込むことだけをしていた。まだ考えないようにしていた。シンジさんに言われた指摘に対する自分の認識が本当は違うのではないかという疑念が晴れなかったからだ。
QBハウスに入る。
5分ほど待ち、シンジさん、私の順に案内される。そして、この場で公家シンジという凄腕営業師の凄腕を垣間見ることになった。シンジさんは座るやいなや、シンジさんの担当となった理髪師と会話を始めていた。何よりお互い楽しそうに。たったの…
「2切りしかしてねぇwww」
のに、だ。たった前髪をチョキンチョキンしただけのことなのに切り終えてからも20分近く理髪師のお兄さんと会話をしていたのだ。
嘘だろ…?と私は絶望に似た関心をシンジさんに抱いていた。その会話に耳を傾けざるおえなかった。
なんだか悔しくて私も真似て担当の理髪師に会話を試みてみる。…が、続かない。常に言葉を発し続けることができない。所々に空白ができてしまう。そして私が言葉を発しなければそれで終わりな、単発的な会話のやり取りが細々と続く。その間もシンジさんと理髪師さんは何やら楽しそうに会話をしていた。
あぁこれが「ナンパ基礎体力」か…
これからこの体力をつけていくことになる。その道のりはかなりしんどいことになるというのはもうよくわかってしまった。
髪を切り終え、ホテルに戻り、絶望で萎れた髪をセットし直す。その後は流星軍団と合流し、一緒に食事。指定された店に向かう。私は準備に少し手間取ってしまい、シンジさんたちとは遅れてホテルを出た。
すすきのは夜の街に戻っていた。私は煌々と照るニッカウイスキーの看板を通り過ぎ、居酒屋やカラオケ、ホストのキャッチが点在する道のりを抜けていく。その途中だった。見た目綺麗めの集団、しかし個々それぞれ強い空気を身に纏った男の集団を見つけた。高身長イケメンやおしゃれイケメンの集団。所謂所のスト高集団だ。そんな集団の中だからか、余計に一際目立った人物がいた。背は小さいが、しかし大きく感じる背中を持つ人物。私はその集団の輪の中に飛び込んでいた。
「流星さん!こんばんわ」
森のように聳え立つ彼らに埋もれてしまわないよう、無事に彼の耳に届くよう声を張った。流星さんはすっと振り向く。
「おおー!QB!久しぶりー!」
「お久しぶりです!」
「おいお前ら、こいつがメンヘラツイッタラーナンパ師のQBだぞ」
スト値の高い森が笑いで騒めく。
「メンヘラですんませんw」
私も一緒になって笑った。
「QB、納涼船の時と変わったな。スト値上がってるよ」
「え、本当ですか?ありがとうございます」
「うん、今のほうが全然いい!あの時ひどかったもんなー!浴衣に髪の毛あげて、まるであれよ、あのお笑い芸人、天津木村!ほんと天津木村にそっくりだったよなー!」
「天津木村ww」
流星軍団の何人かが流星さんのツッコミに笑っている。私はそれに流れるよう、それに乗るように会話を合わせていく。
「あのお笑い芸人ににてるって天津木村だったんですか?!やだな恥ずかしw」
「マジで似てたよ!いけそーな気がするぅー!すげーぴったりだった!」
流星さんは相変わらず弾丸の速さで言葉を飛ばして来る。久々に味わうことがで来てうれしくなった。
「お、ここか、店は」
会話に私が流れていくように私のからだも、彼らの動きに流れていくように店内に入っていく。
エレベーター。
(あれ?)
流星さんは別の道場生の方々と話を続けていた。私は彼らの会話に愛想笑いをしながら流星軍団の輪の中に紛れ込んでいた。言葉を発しない。発せられない。発することができない訳ではない。だが発する気力が失せていた。失せた気力がが愛想笑いを作り込んでいることを知るには少し時間がかかった。
その愛想笑いは先についていたシンジさんたちと合流してからも続いていた。
(あぁ、これが意識飛ぶってやつか)
流星軍団の皆さんと一緒にカニや肉の食べ放題を満喫しながら、さっきの意識が飛ぶ現象もあってか積極的に話に入っていった。
その中程か、最後の仲間、kさんがやってきた。スーツ姿であったが、いかにも自信に満ち溢れた雰囲気はすぐに「ナンパ師」だと感じられた。仕事からそのまま北海道にきたらしく、彼の顔からは疲労が感じられた。bさんのときと同じく、彼にもまた、私は初めましての挨拶ができなかった。私は彼と仲良くやっていけないような直感が感じ取れたからである。
公家チームが全員揃うこととなり作戦会議のようなこともした。そうこうしてたらいつの間にか時間が来ていた。
「にしてもQBはいじられキャラだよなーw」
流星さんは私とシンジさんに言う。私はまた笑った。だがシンジさんは笑わなかった。
「QBはいじると喜ぶからいじらないんですよ。」
当たり前のことのように、そういった。私の中で戦慄が走る。流星さんはそのシンジさんの言葉に、何か納得したような、悟ったような、何かに気がついたのか、軽くうなづいた後、恐らく最後となるであろう、いじりを私にした。
「QBドエムかよ笑」
笑えなかった。
流星軍団と公家部隊の合同スト営業が始まった。食事後、私はすぐさまストへ出た。誰に声をかけたのかメモをしていた。
ギャル オープン 並行トークだが崩せず放流
ギャル オープン 仕事、居酒屋、彼氏グダ 崩せず放流
ギャル 大丈夫です
ギャル 仕事です逃げ
ギャル 不機嫌に「これから仕事だっつーの」
OL オープンこれからのみ 後日アポ取り出来ず放流
立ち止めをさせるためにか、ボディタッチが声かけ和み時に多くなってしまったきがする。連れ出すまでは控えることにした。そして私はギャルが好きだ。ギャル好きゆえにガンシカや嫌な顔、イライラをぶつけられたりする。こっちも嫌になるが、好きなのだから受け止めよう。
そう適時自己修正をしながらポケットに入れても凍てつく掌を握りながら、繁華街とその地下で何度も何度も往復しながらソロストを続けていく。
ギャル ガンシカ
ギャル オープン旦那いる
ギャル オープン旦那いる
学生風 オープン帰るとこ 放流
ギャル オープンこれから飲み行く、並行トークで和むがなかなか足を止められない。丁度たまたま通りかかったしんじさんとkさんが和んでいた女の子が友達だったらしく、そこでひっかかる。放流。
ギャル ガンシカ
ギャル オープンちうごくじん英語で道案内放流
ギャル 「びっくりした!」オープン帰るとこ放流
学生風 オープン 失恋したばかり、立ち止めて和み、大学生、彼氏を手のひらで転がしたかったがなんたらかんたら…和み中に友達遭遇。放流。
ギャル オープン待ち合わせ放流
ギャル ガンシカ
ギャル オープン友達と飲み、その後クラブ、後日アポならず放流
OL オープンこれから迎え来る、放流
ギャル ちうごくじん
ギャル2人 のみ、放流
OL 帰る放流
学生風 「ついて来なくていいっす」
この辺りで2時から3時であった。ここからは声かけのメモはとらなくなってしまった。時間感覚が飛んでいる。
何人目だろうか。
足がきれいで背筋がピンとしたOL。自然と体が動いていた。彼女を追い越し斜め前を位置取って、スッと振り返る。まずは声をかけない。相手の顔を相手にわかるようにじっと見つめ私の存在を認識させる。こちらに気がつき、キョトンとした穏やかで優しい雰囲気のある顔が私の視界に飛び込んでくる。
私はすさず笑顔を作った。彼女も微笑みを返してくれた。
「寒いですね」
「ふふっ、そうですね」
オープン。
「今さ、友達と飲んでいたんだけれど。友達そのままキャバクラにいっちゃって。俺そーゆーとこ結構苦手で、つい1人で外に出てきちゃったんだ。」
「あら、そうなんですね」
「そうなんだよ。それでどうしよっかなーって帰ろうとしてたら、なんだか凄く惹かれる風貌の女の子、君がそこから現れた。」
「ふふふ」
「で、多分今声かけないともう一生会えないんだろうなって思って。でもなんかそれは嫌にかんじて、つい声をかけてしまったんだよね。」
「チャラいですね」
「いいなって直感が働いた人には積極的になるさ」
「ほほー」
「君は今帰り?」
「そうですよ」
「でも今の電車ないよね?」
「はい」
「タクシーを探していた?」
「そうですね、はい」
「もしよかったらさ、タクシーで乗って帰る前に俺とちょっとだけ話さない?この寒さの中タクシー探すのも酷だし、何処か暖かいところに入ろうよ。」
「いやぁ〜」
グダ
「話がつまらなかったらすぐに帰ってもらって貰って構わないからさ」
「私よりもっと可愛い子いますよ」
グダ。
「可愛い子?ここにいるじゃん。君ほど可愛い子はここにいないと思うよ」
「もー。お兄さん、口が上手いなぁ」
打診承諾。
ホテルの連れ出しを試みた。
ホテルまで歩いて行き着くまで和んでいく。仕事帰り、明日早いからねれない、昼職と夜職の掛け持ち、2時間しか寝てない!、今の夜職は新しい場所で疲れが溜まっていたらしい。彼女の情報を引き出せるだけ引き出していく。歩いて行き、ホテルへの道のりが縮まる度、即への確信が高まっていく。
「君面白いw」
「そーかい?ありがとうw」
ホテルの中へ入る。グダはまだない。そのまま会話をしている。途中コーヒーを買い、暖かいねと言いながら2人で飲みながら、エレベーターに乗る。ここでギラか?まだだ、まだ和み切れていないぞ。だが普通このような状況なら流石に相手も意識している筈だ。やるべきなのでは…
不安不信疑念、高まる期待と焦りを抱きながら、手を握ろうと彼女の手を見る。バックを持っている。手は握れないか…ならばと腰に手をまわす。彼女の細い体を私の腕が緩く巻きつけていく。
受け入れた。顔色は?困惑しているというのはよくわかった。だが拒否ではない。エレベーターが私の部屋の階に到着する。腰に手を回しながら部屋への道を歩む。
そして私の部屋の目の前についた。ポケットを弄り、鍵を取り出す。鍵を回し、解鍵の音。そのまま押し開ける。
「じゃあ…私はこれで…」
鍵を開けるため腰に回した手を外すや否や彼女はこういった。部屋前でのグダだった。説得を試みる。
「こわいの?」
「うん…」
「そうだよね、初めて出会った男の部屋って確かにこわいよね」
「うん」
「でも今入れそうで暖まれる座れる場所ってもうほとんどないよ。部屋ならゆっくりコーヒー飲めるし。」
「でも…」
その後も押し引きが続く。
扉はすでに開けられている。さっきまでなんの抵抗もなくにこやかに話していた女の子はそこにはいなかった。彼女は開かれた扉のすぐ目の前にいる。後一歩。ゴールまではまさに目と鼻の先。だがその顔は困惑であった。押せばいける?いやいけないだろう。彼女の困惑とした色の顔の奥には見えない分厚い壁があると悟った。それを私は崩すことはできなかった。いや、できなかったのではない。この状況では絶対にできない。その壁を私は味わうことになった。
切り替えるしかない。まだ和みが足りなかったのだ。そういえば直ホ打診は初めてだった。部屋を閉め、ホテルを出る。近くの小さな公園のベンチに2人で腰をかける。やはり寒かった…
そこで再度和む。
趣味のことから恋愛トーク。
「こんなに話が合う人初めて」
(ほんまかいな。だったら部屋に入ってや。)
「俺もだよ。」
そう言葉を返す。
会話に途切れのないように、しかし即への道が少しでも開かれていけるよう、すぐさま次の言葉を当てた。
「さっきから思ってたことがあるんだ」
彼女の手をとる。
「手綺麗だよね」
彼女は少し恥ずかしそうに返答する。
「言われたことないよ」
「そーなの?俺は凄く好きだよ」
そう言いながら手を握る。拒否はなく、彼女も握り返してくる。
「QB手つめたーい」
「そーなんだよ。凍っちゃわないように暖めててね?」
「うん笑」
手を握りながら会話をする。
だが寒い…
「ホテルは嫌なんだよね」
「ごめんね…」
「いいよ、しょうがないしね。別のところ探そう」
立ち上がり、カラオケボックスへ足を運ぶ。始発まで3時間。その間に即るのだ。
だが即れなかった。
彼女は言っていた。
セックスもキスもあまり好きじゃない。付き合ってもあまりしない、と。
「ひとから触られるのはやなんだけど、私から触るのは好きなの」
そう言って握った手を握り返してきたり、肩や私の顔、いろんなところに触れてきた。
ギラついては引き、ギラついては引きが永遠と続き、残り時間は、あっという間に5分となっていた。彼女は時間も気にせず、私と手を握りつづけながら、話を続けている。私は即への気力が完全に尽きていた。相槌は全自動で行われる。
最後のギラつき。
「そのイヤリング可愛いよね」
会話の合間に意識をそらす。
そこでキスギラ。
グダはなかった。
3秒ほどのキス。短い。あまりにも短い。彼女が私を受け入れた唯一の時間だった。かけた時間に対して、あまりにも短い。彼女が私の腕の中で力んでいるのがはっきりとわかった。
「ダメだよ…私帰るよ?」
「そうだよ、もう帰る時間だよ」
彼女の手を取り、会計に出る。
始発までまだ少し時間があった。彼女は残りの時間をどうしようか悩んでいる。チャンスだ。ようやっと受け入れられたギラ。即へのゴールが見えてきた気がする。まだチャンスがあるのだ。
私は彼女にじゃあね、気をつけてねと告げ1人ホテルへと戻り眠りについた。朝起きて、別れ際に彼女から聞いてきて教えた私のメールの受信ボックスを確認すると、メルマガとツイッターの通知だけがきていた。