別れ
- 2016/10/22
- 08:58
今日は撮影でとてもいいセックスができた。女優さんとの息がぴったりとシンクロし、尺も十分、体位もノルマ以上にでき、発射も綺麗に決まった。最もそれは良い撮影であったという事実を示すために僕が無理矢理に具体例を挙げただけのものだ。全ては最中、自分自身が楽しめたというものだと思う。言うなればセックスによる愛の充足。そんなのが目一杯満たされたかのようだった。うまくいったと思える根拠となった要因は様々あり、一つに監督が(友達設定をうまく作り上げるため)女優さんとの会話をする時間を設けて頂けたこと、二つに女優さんと『セフレと恋人の違い』について思いの外会話が盛り上がったこと、三つに会話から僕ら二人が露呈したこと、四つに上手くさらけ出したことにより……と理由づけすればいくらでもある訳だが兎にも角にもうまくやれた、よかった、そう思えたことの事実は変わりはない。僕は撮影が終わった後もこの事実を空腹時に噛み締めるガムの如く味がなくなるまで、いや無くなってもずっと味わい続けていた。
だがこれは撮影だ。ほんの1、2時間の出来事にしか過ぎない。行為が終わりADさん達が一斉に女優さんをフォロー。部屋を出て行く。彼女の口からは「お疲れ様でした」と絡み後の女優の8割型はいうであろう言葉が何の変哲もなく平常に発せられた。良い作品かどうかはわからない。女優さんがどう思ったのかもわからない。ただ、僕がここ最近のセックスの中で一番、とてもとても良いと思った、ただそれだけ。僕は一旦控え室に戻り、着替え、スタジオを後にする前に、遠くでシャワーを浴びる女優さんに「今日はありがとうございました」と声を投げかけて、外に出た。返しの声が微かに聞こえた。
僕はそこからその熱りが冷めず、帰り道に一切営業が出来なくなってしまった。綺麗な容姿の女の子が沢山、街にいるのが見える。なのにそれらが全く頭の中に入ってこない。思い返せば女優さんの容姿はとても整った顔ではあったものの、自分好みの外見では決してあらず、更にいえば今回は擬似中出し(偽物のセイシを膣内に入れて中出ししたように見せる)もの、つまりは射精をしないものであったのに、僕は凄く充足されていた。僕はもしかしたらあの撮影のようなセックスをするために生きてきたのではないかと勘ぐった。頭の中で色々なものが崩壊していくような感覚があった。もう営業が出来なくなってしまうのではないか、するとしても、営業をするべくための理由が全く別のものになってしまう、そう確信してしまった。
あの女優さんとまた会える保証はどこにもなかった。会えるだろうし、もう会うことはないのかもしれない。名残惜しくはないというのは嘘である、悲しくないというのもまた嘘であろう。また、僕は良いと思たけれど、彼女自身が良かったと思たかどうかは一切わからなかった。この業界ではそれが普通だ。だけれども今回、その「別れ」や「不信」というものも、なんだかいいものだなぁ、そう感じられた。本当はそれはそれは悲しいもののはずなのに、なんでかよくわからなかった。
家に帰り、SNSを確認すると魔法少女が結婚するということの報告をみた。彼女とは随分とラインなり電話なり、またセックスをしてきた。僕が都合よく連絡をすれば彼女から連絡が来た。僕はその報告を見た後、すぐさま連絡を入れた。「おめでとう」。そんな言葉を一つ放っておいた。彼女は
「まだわからないけれども」
そういっていた。
「いやぁ書いてある通りならもう確定でしょ。とりあえず電話しよか」
何でか僕は居ても立っても居られない気持ちになった。その電話では随分と長いこと話した。彼女の眠気なことなんぞ気にもとめずに話し続けた。営業の時のように早口でまくしたてるように何かを話していた。今日の撮影のことも話した。彼女は浮ついた声で相槌を打っていた。そういえば僕が送るラインにはすぐに既読になるものの、彼女自身から連絡が来るようなことは一度もなかった。そんなようなことを僕はいつもよりも素早く口を動かしながら、実に今更ながらに想いふけっていた。何故急にそれを想いふけったのだろう。よくわからなかった。わかりたくはないものだというのはわかった。
僕は彼女に電話越しで辞意をさせていた。インカメラでいやらしい姿を見せつけさせるようにしていた。今日はそんなことはしなかった。できるはずもなかった。
僕はいった。
「もう出来なくなるね。どんな気持ち?」
「寂しい。でも…そんな事考えちゃいけないんだよね」
「そうだよ、よくわかってんじゃん」
何か込み上げてくるものがあった。口では強がってはいるものの、彼女に随分と寂しさが漏れ出てしまっていたと思う。
別れというのは、いいものだ。
電話を静かに切ると今日撮影で感じてたものがまた、浮上していた。これもか?この別れも良いもののように感じているのか?電話を終えた僕は間違いなく、悲しく、寂しく、そして嘆いていた。それなのに何故。僕は僕自身に困惑していた。
ウン十ウン百ナン千という別れを積んで来た僕は今まで「別れ」とは憎しみ悲しみ嫌悪拒絶の象徴そのものだった。例え出会って一瞬でも、その別れが辛かった。その別れの感覚が麻痺することはあったけれど、寂しさや悲しさ、辛さは一向に消えることはなかった。今日、僕は今までのそれと全く同じような感情が胸の内から込み上げていた。それなのに何故だろう。何故だか今日はそれらの感情が「いいものだ」と思えたのだった。悲しいのに寂しいのに「いいものだ」なんて、なんて最悪な喜びであろうか。今日僕の価値観は随分と捻じ曲げられてしまったかのようだった。
だがこれは撮影だ。ほんの1、2時間の出来事にしか過ぎない。行為が終わりADさん達が一斉に女優さんをフォロー。部屋を出て行く。彼女の口からは「お疲れ様でした」と絡み後の女優の8割型はいうであろう言葉が何の変哲もなく平常に発せられた。良い作品かどうかはわからない。女優さんがどう思ったのかもわからない。ただ、僕がここ最近のセックスの中で一番、とてもとても良いと思った、ただそれだけ。僕は一旦控え室に戻り、着替え、スタジオを後にする前に、遠くでシャワーを浴びる女優さんに「今日はありがとうございました」と声を投げかけて、外に出た。返しの声が微かに聞こえた。
僕はそこからその熱りが冷めず、帰り道に一切営業が出来なくなってしまった。綺麗な容姿の女の子が沢山、街にいるのが見える。なのにそれらが全く頭の中に入ってこない。思い返せば女優さんの容姿はとても整った顔ではあったものの、自分好みの外見では決してあらず、更にいえば今回は擬似中出し(偽物のセイシを膣内に入れて中出ししたように見せる)もの、つまりは射精をしないものであったのに、僕は凄く充足されていた。僕はもしかしたらあの撮影のようなセックスをするために生きてきたのではないかと勘ぐった。頭の中で色々なものが崩壊していくような感覚があった。もう営業が出来なくなってしまうのではないか、するとしても、営業をするべくための理由が全く別のものになってしまう、そう確信してしまった。
あの女優さんとまた会える保証はどこにもなかった。会えるだろうし、もう会うことはないのかもしれない。名残惜しくはないというのは嘘である、悲しくないというのもまた嘘であろう。また、僕は良いと思たけれど、彼女自身が良かったと思たかどうかは一切わからなかった。この業界ではそれが普通だ。だけれども今回、その「別れ」や「不信」というものも、なんだかいいものだなぁ、そう感じられた。本当はそれはそれは悲しいもののはずなのに、なんでかよくわからなかった。
家に帰り、SNSを確認すると魔法少女が結婚するということの報告をみた。彼女とは随分とラインなり電話なり、またセックスをしてきた。僕が都合よく連絡をすれば彼女から連絡が来た。僕はその報告を見た後、すぐさま連絡を入れた。「おめでとう」。そんな言葉を一つ放っておいた。彼女は
「まだわからないけれども」
そういっていた。
「いやぁ書いてある通りならもう確定でしょ。とりあえず電話しよか」
何でか僕は居ても立っても居られない気持ちになった。その電話では随分と長いこと話した。彼女の眠気なことなんぞ気にもとめずに話し続けた。営業の時のように早口でまくしたてるように何かを話していた。今日の撮影のことも話した。彼女は浮ついた声で相槌を打っていた。そういえば僕が送るラインにはすぐに既読になるものの、彼女自身から連絡が来るようなことは一度もなかった。そんなようなことを僕はいつもよりも素早く口を動かしながら、実に今更ながらに想いふけっていた。何故急にそれを想いふけったのだろう。よくわからなかった。わかりたくはないものだというのはわかった。
僕は彼女に電話越しで辞意をさせていた。インカメラでいやらしい姿を見せつけさせるようにしていた。今日はそんなことはしなかった。できるはずもなかった。
僕はいった。
「もう出来なくなるね。どんな気持ち?」
「寂しい。でも…そんな事考えちゃいけないんだよね」
「そうだよ、よくわかってんじゃん」
何か込み上げてくるものがあった。口では強がってはいるものの、彼女に随分と寂しさが漏れ出てしまっていたと思う。
別れというのは、いいものだ。
電話を静かに切ると今日撮影で感じてたものがまた、浮上していた。これもか?この別れも良いもののように感じているのか?電話を終えた僕は間違いなく、悲しく、寂しく、そして嘆いていた。それなのに何故。僕は僕自身に困惑していた。
ウン十ウン百ナン千という別れを積んで来た僕は今まで「別れ」とは憎しみ悲しみ嫌悪拒絶の象徴そのものだった。例え出会って一瞬でも、その別れが辛かった。その別れの感覚が麻痺することはあったけれど、寂しさや悲しさ、辛さは一向に消えることはなかった。今日、僕は今までのそれと全く同じような感情が胸の内から込み上げていた。それなのに何故だろう。何故だか今日はそれらの感情が「いいものだ」と思えたのだった。悲しいのに寂しいのに「いいものだ」なんて、なんて最悪な喜びであろうか。今日僕の価値観は随分と捻じ曲げられてしまったかのようだった。