処女喪失、ハプバーにて。
- 2016/12/15
- 09:06
「きゅべちゃんね、アナ◯を開発しにきたんだよ〜」
撮影終わりに気の許せる男優仲間に誘われていった初めてのハプニングバーで無事、滞りなく1度目のセックスを終え、不安と緊張の象徴であろう肩の力みが抜け、女の子たちとの会話を柔らかに楽しんでいた。しかしその一言が僕を氷のように凍て付かせ、再び上半身を硬直させた。ほぼ身内と常連だけで構成されたお客さんや店員さんたちに、一秒でも早く溶け込もうと、友達である彼をダシにトークを展開し過ぎてしまった天誅が下ったのだと悟った。
(ヤられたからやり返した、それだけのことだ)
と彼は勝ち誇ったかのように、各々の会話を遮るようにしてその声をあげ、のち、固く脆く冷たくなってしまった僕の全身を舐め回すかのように見下ろしていた。
「いやいやいやいやいやいや!何言ってんのお前!絶対しない!絶対にやらんから!アナ◯開発のプロがいるとは確かに聞いてたさ!でもそれ目的で来た訳ではないのはお前もしっとろーが?!フリじゃねぇから!てか今日言ったよな?!3時間前に言ってたはずだよな?!『俺は死ぬまで処女を守りきる』って高らかに宣言したよな?!聞いてたよな?!マジでこれだけは譲れねぇから、なんと言われようと譲れねぇからな?本当に、マジで!」
拒否をする。可能な限り全力で拒否を言葉に表した。僕ら以外のお客さんが僕の方に向けていた「道化」の目線が一転し、『へぇ、君にはそんな趣味がおありで』と暗に察せるかの如く、ニヤニヤと僕らの方へ目を向けて行くのが感じられる。営業を人並みを少し超えるほどには行っていた僕にとって、初めて参入するグループの空気を制圧しコントロールする事は難しいことではなくて、この身内だけで構成されたハプニングバーも例外になく、すぐさまに溶け込むことができていたのだが、そんな空気をコントロールしていたであろうと確信を抱いていた僕の脇腹にヒトツキの言葉のナイフが、のちの崩壊を導いて行くのであった。
実はもうこの時点で『終わりが確定』していたのだが、滑稽にも現実を逃避するように僕は『拒否の言葉』を込めた弾丸を命中率の著しく低いマウスマシンガンに乗せて打ち込みまくる。いわゆる、建前、『形式グダ』。
「大丈夫だって〜、オーナーに任せれば大丈夫!俺だってやったし、なんならここにいるみんなやってるから!」
「そうだよ!オーナー、プロだからスッゲー安全だし、何より気持ちいから!」
「男見せろ〜、あっ、女になるのか」
僕の言葉のマシンガンは当然不発。ワザと演技でもしているのかと誰でもわかってしまうくらいに当たり前だった。全てが打ち返されていた。皆が口々にそう声を上げ始めてしまっていたのだから当然だった。
(ああダメだ、これは。)
「さぁ覚悟しましょう」
僕に一言も喋ることのなかった店員の彼女はそう言って立ち上がり、いつの間に装着していたのか、よく医者とかナースとか研究者がするようなあの使い捨てのゴム手袋を両手にはめ、まるで今からオペでも開始するかのように両肘をくの字に曲げて、蒼白の笑みで僕の方へ近づいてくる。迫り来る憎悪、恐怖、嫌悪、そして諦めを一括りにした感情に僕は囚われていた。
僕はこの後、ケツの穴の処女を喪失する。
「腹括るのはや!」
バスタオルが一枚敷かれたプレイルームに仰向けで尻の穴を突き出して寝る僕に彼女たちは笑う。
「いやぁ流石プロやわ〜、肝座ってる」
(こちとらキモじゃなくて絶望という崖っぷちに座ってんだよ馬鹿野郎)
限定イベントなのか定期イベントなのか、このあと起こる混沌を嗅ぎつけたのかプレイをしていた男女が皆、僕がケツを広げゴム手袋の彼女に見られているこの部屋にやって来る。僕はここにいる紳士淑女の皆様方の真のオカズになるのだということを察した。この空間は異様だ。AVの撮影現場とはまるで違っていた。僕は風俗に行った事はないが、多分それとも違うのだろうなというのもなんとなくだがわかった。このハプニングバーという場所は男だけではない、女の子自身も、薄暗い桃色の照明を吸い込んでいるスス汚れた白い天井と、厳格に取り締まられたルールのもと、混沌渦巻く欲望に己の身を委ねてゆく。言うなれば性行為の依存症となってしまった者たちの隔離施設のようなもの、仰向けに店の壁を仰ぐ僕はそう思っていた。その僕の視界の中に、二人の女の子の顔が映る。女の子2人がペアの男を放って僕の両脇に着いていた。
(…?)
「さぁはじめよう」
店員の彼女がわざとらしく合図をする。5分前まで場を制圧していたこの僕が一転陥落し、今、この場において僕という存在にはなんの決定権もないことを知らしたかのようだった。そんな羞恥の周知の事実を噛み締める暇も無く、仰向けで寝る僕の股間に、冷たさと粘性を纏ったゴム手袋の指が早々に絡みついてきた。
「うっ」
それを合図に触れるある感覚に僕は体を跳ねらせた。ローションがまとわりつきはじめた股間の感覚にではない。もっと上の部位、乳首だ。僕の両脇に着いた女の子たちが僕の乳首を弄りだしていた。たちまち僕の脳はある感覚に支配されていった。人に支配されるために発達している感覚、ドM人格だ。
僕は乳首が弱い。あまりにも弱すぎる。乳にうっすらと生える毛に触れられただけで僕の全身の筋肉が萎縮してしまう。それほどまでに弱い。だから僕にとって乳首を触られるということは、半端強制的に支配される側に回ることとなる。いわばドMになるためのスイッチなのだ。物心ついた時からだ、こればかりはしょうがなかった。
両脇でニヤつく女の子が両乳首をこねくり回し、股間をゆっくりと包み込んでゆく。羞恥があまりにも大きい。その羞恥がこの僕の体の動きを形容していた。腰を中心に体をくねらせ、声を堪える。くすぐったさと恥ずかしさが入り混じった感情。「これから間違いなく穴に『アナ』を開けられる」という恐怖もあったろう。いつも以上に僕は羞恥を感じていた。恥ずかしくて僕は左手で顔を隠していた。
「乳首こんなに立っちゃってる、女の子みたい」
女の子が僕の耳もとでその言葉を置いていった。(否定はしない。)そう言葉で伝えたかったが、その声は出なかった。
「うるさいなーうるさいよーあー…ちょっ、うるさいよーわかってるよー、あー!、わー!、あー!あー!」
声は出ないのになぜか僕は饒舌になっていた。
彼女たちの指や手は股間や乳首だけでなかった。太ももの裏側や脇腹を一時期ネットで流行った「アダムタッチ」を用いて僕の体の筋肉の緊張を解きほぐすように、しかし揉みほぐすのではなく間接的に遠隔的に、皮膚上で無防備に守る産毛を逆撫でしながら擽ぶり犯して行く。彼女たちは意地が悪い。僕の体が激しくビクつき、音の入り混じる吐息が漏れた体の場所を固執に再び攻め直してくる。
乳首や腿裏から徐々に別の感覚が芽吹いて行く。頭が白く白くなって行く感じがする。これはアレだ。僕がよくAVの撮影で「M男役」としての時の感覚と全く同じだ。僕のエムオ役の撮影はいつもはこの感覚で終わる。えむとしての快と一般的な羞恥がちょうど半々くらいの状態で拮抗している状態で、だ。
ローションが纏った手が遂にアナにうつっていった。なんの脈絡もなく、ただ自然に、あまりにも当然のようにローションをまとった指が穴近辺に触れ出してゆく。僕はのMの感覚が下の方へ降りて行く。次第に下半筋が硬直していった。
(…?)
僕はその触覚に疑問を覚えた。アナへのフェザータッチ始まる。違う、意外にも違った。今受けているこの刺激は今体を硬直させ過ぎて身構えしまうようなほどの感覚ではではないということに気がついたのだ。
アナ周辺をフェザータッチされると当然、羞恥と快の混じったぞわぞわとした感覚になる。だが、なぜか不思議と実の「アナの表面」をローションで撫でられるという感覚に特別な触覚を感じてはいなかった。アナを触られることにM的な感覚が巻き起こらない。僕はこの触覚を受け入れているということだろうか。何故か、初めての感覚なのにされ慣れたかのような、安定感のある体の状態が生み出されていた。よくよく考えてみればそれもそのはずではあった。僕らは普段、ここから汚物を放出して、それをトイレでティッシュペーパーで拭き取ると言うことをしているのだから、「アナを触られることに対して」快だとか不快だとか、そういったものは生まれえないのだ。
だが『穴の中に入ってゆく感覚』はそうは体験する事はないだろう。僕は病院で浣腸をされたことすらもない。だから初めての感覚だった。というか、自然界に置いて肛門から逆入などという現象は普通はありえないことだ。だからそれがあるとした、「生まれて初めての感覚」ということになるのだろう。
彼女の指がだんだんと僕の穴の中心部へと近づくのをかんじながらそんなことを抱いていた。もちろん乳首への刺激はまだ終わらない。股間もしごかれ続けている。僕はああだこうだで体に波を打ち続けていた。
「まだ入れてないのに、こんなにビクついちゃってる」
女の子のその言葉が僕の処女喪失の相槌となっていたとはおもわなかった。
唐突にゆっくりと入り口に入ってきた。すごくゆっくりと、自然に侵攻してきた。遂にきてしまったのだと、僕は左手のひらの中で眼球を歪ませていた。泣きようもない、喚きようもない、叫びようもない、絶望を形容しようもない、ただ僕は少しだけ甲高くて小さな呻き声を上げていた。入り口を解きほぐして行くように、絡み合った紐を解いて行くように、指が穴の中へと入って行く。
「うぐ…」
ゴム手袋をしていて、その彼女の爪は切ってあったのだが、爪の硬い感覚が少しばかり痛い感じがした。ただ感覚の中にはもう羞恥というものはなく、代わりに犯されているという恐怖が思い起こされたが、そのほかの感覚が快楽なのかどうかと言われると良くわからなかった。だが間違いなく言えるのは、さっきまでは乳首に集中していた「Mの感覚」が、「ただ触られることに関しては普通の感覚」であった筈のアナの方へ再び移行しているのだけはわかった。
指はほんの数センチ入った所で止まった。どれくらいまで入ったのかよく分からなかったが恐らくば、彼女の第一関節が入った所くらいなのだろうと予測した。何かの資料で見たことがある。アナには皮膚の一部の部分と腸の一部の部分があり、入り口の数センチのところにその境界があるという。アナの入り口の数センチより手前側は皮膚の一部であり『神経が通っている』が、その境界の先は腸の部分であり、『神経が通っていない』ため、痛み等は感じなくなるのだという。彼女の爪の硬さがまだ僅かに感じられたため、今まさにその境界の所まで侵攻したのだろう。ただ、なんとかギリギリ今この入り口に指が立ってはいるのだが、これ以上先に進まれるとこの爪の硬さとは別の痛みを伴ってしまうだろうと、確信があった。それはこの指もわかっていた様で「さてどうしたものか」と言わんばかりにその場で立ち往生している様に思えた。
そんなような事を僕は、呻き声を上げ続けながら、なぜだか冷静にそれを頭に思い浮かべていた。脳と身体が矛盾していた。意味がわからなかった。
入り口で侵攻を思惑しているその指はその場で鈍く動き続けた。解かれた紐を更に細かく解きほどく為に繊細に陵辱しはじめる。
「あれ?)
ふと僕は何かに気がついた。
注意深く観察しているギャラリー、そして陵辱する女の子たちが口にする。
「どうしたの?」
僕の中で、何か図式の様なものが頭の中に薄っすらと、しかし鮮明に浮かび上がってくるのがわかった。その図式を僕の全身体の筋が各々全自動で読み取り始めた。そんな様な感覚があった後、異変が起きた。
「…えっ!…勝手に!」
指を操る彼女が声を上げた。
「指が奥に吸い込まれて行く!」
この時僕はアナに指を入れられている自分が今取るべくための肛門周辺の筋肉の状態、足の位置、上半身の状態、呼吸の状態が、初めての経験なのに元々知ってたかのように脳に思い起こされ、体の緊張が恐ろしいほど抜けて、そのあるべく状態に沿うように持っていくことができていた。すぅっと奥に奥に入り口に立っていたその指が歩み進んで行くのがわかる。僕はいつも生活する時の様に呼吸をしていたことに何故だか疑問が湧いていた。
「あっちゅーまに…すんなり中指、奥まで入っちゃったよ…」
痛みの境界を抜けたのがわかった。終わったという感覚や、犯されてしまったという恐怖や嫌悪感情はほんの一瞬思い起こされたが、思い起こされたのは一瞬で、もうこの時は完全に未知な感覚が僕の体を支配していた。
頭は異常に冴えていて、またしても「酷く冷静」だった。顔を覆っていた左手を外した。両乳首をいじっていたはずの女の子達が先までのそれを放棄して、すんなり受け入れられてしまった中指を唖然として見ていたのが見えた。
「なんかさ、あれな。抜き差しは今はやめてな?これ間違いなく痛くなるわ。」
「わかった」
「見たか!おまーら!!ショジョ貫通キタコレやで!!!ゴレぇええぇ!!!ってちょま!!たんま!!人が話してる時に急に動かさんてや!おい!!……えっ?いやいやなんだよおまーらその顔は?」
ギャラリーの彼ら、僕を犯している女の子3人にボケなり笑いを取るくらい(いな、取ってしまうくらいに、まるで気分が異常にハイな状態でマシンガントーク営業をする時の高揚感ににたような感覚により)頭が回転していた。
中指が仰向けに寝る僕の上側へとくの字に曲げられた。その時僕はチンに異様な感覚を覚えた。尿意感のような、写生感のような、そのような感覚がその指の動きに合わせてちんの先に向かって現れたのだった。ああ、これが前立腺マッサージというものなのだと、知った。新たな感覚に恐ろしく感動し、絶望していた。この感覚を良く覚えておかねばならない。僕は瞬時にそれを悟った。くの字に曲げられるたび、その写生感が上に上にと発射されるような感覚があり、同時に中指がぼくの中で動くたびに僕のいつのまにか爪先までピンと伸び切ってしまった両脚を痙攣させていた。僕自身の脳には快楽だとか恐怖だとか興奮だとかそういったものは一切無くなっていた。僕の脳みそだけがとても透明に明瞭にはっきりとしていて、その状態とまるで意を反するように体が勝手に痙攣し、波を打つように写生感の連続の海へと放り出される。乳首の感覚も戻っていて、彼女たちに弄られるたび僕の体は勝手に蛇になったかのようにウネウネと動き出していた。
脳だけははっきりしていたから、状態を見ている彼ら、している彼女らに伝えることができた。ただ、だんだんとその言葉を発するための呼吸器系も、中を犯す中指に、乳首を弄ぶ舌や人差し指の動きに支配されていくのがわかった。時間がどれくらい経ったろう、音と視界だけは鮮明に聞き取れ映る。僕自身の声も聞こえてくる。まるで女の子のような高い音を持つ喘ぎ声を発し始めていた。
ギャラリーはいつのまにか僕の声だけをきくかのようにカーテンで仕切られただけの部屋の外に戻っていった。部屋には女の子3人と僕だけになった。
アナを続けられるうちに僕の目、口、肺、骨、耳といった脳以外の器官は全て機能が意識の範疇を超えてしまった。僕の右手は何かを掴みたいのか乳首を弄ぶ女の子の腕の袖を必死に掴んでいて、左手は頭蓋から湧いてでてくる何かを必死に押さえつける、押し込もうとするかのように不乱にコメカミ周辺を鷲掴みしていた。その腕や手の動きは完全に僕の意識化になく、勝手にまた別の女の子の袖を掴んだり顎や眉間を被せたりしていた。左手が動くたびにに僕の右隣で乳首をいじる女の子の顔が映った。とても嬉しそうな、しかし蔑むような、好奇と不信と支配の目を僕に向けているのがうつった。それをうつす僕の眼球は目の奥にある神経細胞を刺激し、焼き付けるようにうつった。火傷するかのようにうつるその感覚が眼球の涙腺を刺激し、僕のその視界をぼやかしていた。まるで何かを乞うような、そんな目の状態なんだ、と僕は知った。同時に漏れるその音も女の子が鳴く声なのだと、確信することもできた。
目の火傷とメスの声という知見を得ることによって同時に僕は気がついた。僕は今変性意識状態にあることを。幽体離脱している感覚だった。あまりにも明瞭になった僕の脳は精神だけが容易く体から分離しやすい状態になっていた。
考えることをやめると僕は完全に真っ白な状態になっていた。記憶を飛ばすような感覚だった。
写生感は何度も訪れた。何か出そう、という感覚が波を打つようにやってくる。だが、その出てきそうな液体は発射されることなく、ひいてゆき、また別の波を作って行く。「何回いったの?」と女の子が僕に告げる。数えてなんかいられなかった。「ヤク中みたいな顔をしてる」と言われた。その後左乳首をいじっていた女の子に膝枕をされた。
女の子は「だんだんと前立腺が降りてきた」と口にした。正直、前立腺を刺激することによる写生感のような波を打つ感覚は気持ちいいものなのか、よくはわからなかった。新しい刺激故、これを容易に気持ちのいいものだと認識して良いものなのかと白くなった脳みその裏で思考していた。ただ、力を抜き、思考をも変性意識を利用して飛ばしてしまえば側から見たら「気持ちの良い程に見える」「快楽に溺れている人」のように見えるであろうことは間違いなかった。だからこの状態で「気持ちいいですううう」だとか「もっと何々してください」だとか口にすれば、本物と呼べるえむが完成するんだなというものまで見えてきていた。ただ、そのようなものを「言語化せずに」行けるところまで行く必要はあるなと思った。女の子たちは「気持ちいいの?続けて欲しいの?」と幾度か聞いてきた。僕はそれに応えることはできたのだろうけれど、勿論答えなかった。この感覚を汎用的なものに「言語化」するのは勿体無い。
また同時に、波打つ写生感を超えて出てきそうなその液体を頑張って出そうと意図して下半身を力ませることもしていた。やはり男優であるから、エクスタシーを彼女らに見せねばならないなとは思った。(ぶっちゃけ収集がつかないくらいまで続けていたので終わらせたかったのもある)しかしその液体を放出させることは叶わなかった。本当に何かが出そう直前まで行くのに出る直前でそれが引っ込んでしまう。これは中指で犯す彼女のテクニックに問題があるというわけではなかった。自分のうちにあることなのだということはわかっていた。
僕は2時間もの時間穴を犯され続けていた。抜くときに、中指の長さに気がついた。まだ抜けない、まだ抜けない、まだ抜けぬのか、あぁようやく抜けた、そンな感覚だった。便をする感覚と同じだった。終わった後は随分とぐったりしていて、彼女たちにタオルを投げ込まれた。女優さんに僕らが普段しているかのようにアフターケアーを丁重に扱われていた。脳の明瞭状態はすぐにもどった。一息ついて、僕はそさくさとシャワールームへと向かい、この感覚の精査を行なった。
「どうだった?気持ちよかった?」
みんな眠ってしまった場内でタバコを吐く、「指を入れた彼女」が僕の目を見ずに言う。
「あの感覚を気持ちが良かったと形容していいのか、ちょっとわからないかな」
「うん」
「俺は女の子ではないから、確実な共感を得たと言うわけではないのは間違いのないことなんだけれど、女の子の気持ちが少しだけわかった気がするんだよね」
「普通は男が入れる側、女はそれの受け身だからね」
「そうだね。初めて受け身側、入れられる側というのを擬似的にだが体感した気がする。女の子のセックスって、精神的にこんな感じなのかなってほんとチラッとだけどわかった。」
「うん」
「だから気持ちいいとか不快だったとかそういうのではなくて、すごく勉強になった。つまんない解答になっちゃったけども」
「つまんなくないよ。入れられて初めて気がつくことがあったでしょ」
「そうだね。女の子側の感覚を知ることができたから。」
「それ知ってる人ってセックスがうまい人だよ。自分が体感としてツボを知ってるから、リアクションだとか表情、声だとかで気持ちいポイントが探れるようになる。普通の男は知らないからね。女の子の殆どがセックスでいけないのはそのせいなのよ。もっと上手くなってくと思うよ、君」
「今夜の経験、男優として今後に活かしてみせますわ。大事なことを知ることができましたよ。ありがとう、本当に」
帰りに冒頭で僕を陥落させた仲間の男優に「いやぁ処女卒ですわ〜、ついにやっちまったわ君のせいで〜」とドヤしたら、『ヴァイヴやモノホンのチンを入れてないから、処女喪失とは言えない』らしい。
拘りとは何とも面倒な話だ、と、牛丼と片手にあるこのスマホに映し出される文字、彼の話を念仏を聞く豚耳と共に書き込んでいた。無意識でピンと張り過ぎた僕の両脚は、その翌日から後3日ほど筋肉痛に悩まされ、仕事で写生をするのに少しばかり手間取ることとなってしまった。
撮影終わりに気の許せる男優仲間に誘われていった初めてのハプニングバーで無事、滞りなく1度目のセックスを終え、不安と緊張の象徴であろう肩の力みが抜け、女の子たちとの会話を柔らかに楽しんでいた。しかしその一言が僕を氷のように凍て付かせ、再び上半身を硬直させた。ほぼ身内と常連だけで構成されたお客さんや店員さんたちに、一秒でも早く溶け込もうと、友達である彼をダシにトークを展開し過ぎてしまった天誅が下ったのだと悟った。
(ヤられたからやり返した、それだけのことだ)
と彼は勝ち誇ったかのように、各々の会話を遮るようにしてその声をあげ、のち、固く脆く冷たくなってしまった僕の全身を舐め回すかのように見下ろしていた。
「いやいやいやいやいやいや!何言ってんのお前!絶対しない!絶対にやらんから!アナ◯開発のプロがいるとは確かに聞いてたさ!でもそれ目的で来た訳ではないのはお前もしっとろーが?!フリじゃねぇから!てか今日言ったよな?!3時間前に言ってたはずだよな?!『俺は死ぬまで処女を守りきる』って高らかに宣言したよな?!聞いてたよな?!マジでこれだけは譲れねぇから、なんと言われようと譲れねぇからな?本当に、マジで!」
拒否をする。可能な限り全力で拒否を言葉に表した。僕ら以外のお客さんが僕の方に向けていた「道化」の目線が一転し、『へぇ、君にはそんな趣味がおありで』と暗に察せるかの如く、ニヤニヤと僕らの方へ目を向けて行くのが感じられる。営業を人並みを少し超えるほどには行っていた僕にとって、初めて参入するグループの空気を制圧しコントロールする事は難しいことではなくて、この身内だけで構成されたハプニングバーも例外になく、すぐさまに溶け込むことができていたのだが、そんな空気をコントロールしていたであろうと確信を抱いていた僕の脇腹にヒトツキの言葉のナイフが、のちの崩壊を導いて行くのであった。
実はもうこの時点で『終わりが確定』していたのだが、滑稽にも現実を逃避するように僕は『拒否の言葉』を込めた弾丸を命中率の著しく低いマウスマシンガンに乗せて打ち込みまくる。いわゆる、建前、『形式グダ』。
「大丈夫だって〜、オーナーに任せれば大丈夫!俺だってやったし、なんならここにいるみんなやってるから!」
「そうだよ!オーナー、プロだからスッゲー安全だし、何より気持ちいから!」
「男見せろ〜、あっ、女になるのか」
僕の言葉のマシンガンは当然不発。ワザと演技でもしているのかと誰でもわかってしまうくらいに当たり前だった。全てが打ち返されていた。皆が口々にそう声を上げ始めてしまっていたのだから当然だった。
(ああダメだ、これは。)
「さぁ覚悟しましょう」
僕に一言も喋ることのなかった店員の彼女はそう言って立ち上がり、いつの間に装着していたのか、よく医者とかナースとか研究者がするようなあの使い捨てのゴム手袋を両手にはめ、まるで今からオペでも開始するかのように両肘をくの字に曲げて、蒼白の笑みで僕の方へ近づいてくる。迫り来る憎悪、恐怖、嫌悪、そして諦めを一括りにした感情に僕は囚われていた。
僕はこの後、ケツの穴の処女を喪失する。
「腹括るのはや!」
バスタオルが一枚敷かれたプレイルームに仰向けで尻の穴を突き出して寝る僕に彼女たちは笑う。
「いやぁ流石プロやわ〜、肝座ってる」
(こちとらキモじゃなくて絶望という崖っぷちに座ってんだよ馬鹿野郎)
限定イベントなのか定期イベントなのか、このあと起こる混沌を嗅ぎつけたのかプレイをしていた男女が皆、僕がケツを広げゴム手袋の彼女に見られているこの部屋にやって来る。僕はここにいる紳士淑女の皆様方の真のオカズになるのだということを察した。この空間は異様だ。AVの撮影現場とはまるで違っていた。僕は風俗に行った事はないが、多分それとも違うのだろうなというのもなんとなくだがわかった。このハプニングバーという場所は男だけではない、女の子自身も、薄暗い桃色の照明を吸い込んでいるスス汚れた白い天井と、厳格に取り締まられたルールのもと、混沌渦巻く欲望に己の身を委ねてゆく。言うなれば性行為の依存症となってしまった者たちの隔離施設のようなもの、仰向けに店の壁を仰ぐ僕はそう思っていた。その僕の視界の中に、二人の女の子の顔が映る。女の子2人がペアの男を放って僕の両脇に着いていた。
(…?)
「さぁはじめよう」
店員の彼女がわざとらしく合図をする。5分前まで場を制圧していたこの僕が一転陥落し、今、この場において僕という存在にはなんの決定権もないことを知らしたかのようだった。そんな羞恥の周知の事実を噛み締める暇も無く、仰向けで寝る僕の股間に、冷たさと粘性を纏ったゴム手袋の指が早々に絡みついてきた。
「うっ」
それを合図に触れるある感覚に僕は体を跳ねらせた。ローションがまとわりつきはじめた股間の感覚にではない。もっと上の部位、乳首だ。僕の両脇に着いた女の子たちが僕の乳首を弄りだしていた。たちまち僕の脳はある感覚に支配されていった。人に支配されるために発達している感覚、ドM人格だ。
僕は乳首が弱い。あまりにも弱すぎる。乳にうっすらと生える毛に触れられただけで僕の全身の筋肉が萎縮してしまう。それほどまでに弱い。だから僕にとって乳首を触られるということは、半端強制的に支配される側に回ることとなる。いわばドMになるためのスイッチなのだ。物心ついた時からだ、こればかりはしょうがなかった。
両脇でニヤつく女の子が両乳首をこねくり回し、股間をゆっくりと包み込んでゆく。羞恥があまりにも大きい。その羞恥がこの僕の体の動きを形容していた。腰を中心に体をくねらせ、声を堪える。くすぐったさと恥ずかしさが入り混じった感情。「これから間違いなく穴に『アナ』を開けられる」という恐怖もあったろう。いつも以上に僕は羞恥を感じていた。恥ずかしくて僕は左手で顔を隠していた。
「乳首こんなに立っちゃってる、女の子みたい」
女の子が僕の耳もとでその言葉を置いていった。(否定はしない。)そう言葉で伝えたかったが、その声は出なかった。
「うるさいなーうるさいよーあー…ちょっ、うるさいよーわかってるよー、あー!、わー!、あー!あー!」
声は出ないのになぜか僕は饒舌になっていた。
彼女たちの指や手は股間や乳首だけでなかった。太ももの裏側や脇腹を一時期ネットで流行った「アダムタッチ」を用いて僕の体の筋肉の緊張を解きほぐすように、しかし揉みほぐすのではなく間接的に遠隔的に、皮膚上で無防備に守る産毛を逆撫でしながら擽ぶり犯して行く。彼女たちは意地が悪い。僕の体が激しくビクつき、音の入り混じる吐息が漏れた体の場所を固執に再び攻め直してくる。
乳首や腿裏から徐々に別の感覚が芽吹いて行く。頭が白く白くなって行く感じがする。これはアレだ。僕がよくAVの撮影で「M男役」としての時の感覚と全く同じだ。僕のエムオ役の撮影はいつもはこの感覚で終わる。えむとしての快と一般的な羞恥がちょうど半々くらいの状態で拮抗している状態で、だ。
ローションが纏った手が遂にアナにうつっていった。なんの脈絡もなく、ただ自然に、あまりにも当然のようにローションをまとった指が穴近辺に触れ出してゆく。僕はのMの感覚が下の方へ降りて行く。次第に下半筋が硬直していった。
(…?)
僕はその触覚に疑問を覚えた。アナへのフェザータッチ始まる。違う、意外にも違った。今受けているこの刺激は今体を硬直させ過ぎて身構えしまうようなほどの感覚ではではないということに気がついたのだ。
アナ周辺をフェザータッチされると当然、羞恥と快の混じったぞわぞわとした感覚になる。だが、なぜか不思議と実の「アナの表面」をローションで撫でられるという感覚に特別な触覚を感じてはいなかった。アナを触られることにM的な感覚が巻き起こらない。僕はこの触覚を受け入れているということだろうか。何故か、初めての感覚なのにされ慣れたかのような、安定感のある体の状態が生み出されていた。よくよく考えてみればそれもそのはずではあった。僕らは普段、ここから汚物を放出して、それをトイレでティッシュペーパーで拭き取ると言うことをしているのだから、「アナを触られることに対して」快だとか不快だとか、そういったものは生まれえないのだ。
だが『穴の中に入ってゆく感覚』はそうは体験する事はないだろう。僕は病院で浣腸をされたことすらもない。だから初めての感覚だった。というか、自然界に置いて肛門から逆入などという現象は普通はありえないことだ。だからそれがあるとした、「生まれて初めての感覚」ということになるのだろう。
彼女の指がだんだんと僕の穴の中心部へと近づくのをかんじながらそんなことを抱いていた。もちろん乳首への刺激はまだ終わらない。股間もしごかれ続けている。僕はああだこうだで体に波を打ち続けていた。
「まだ入れてないのに、こんなにビクついちゃってる」
女の子のその言葉が僕の処女喪失の相槌となっていたとはおもわなかった。
唐突にゆっくりと入り口に入ってきた。すごくゆっくりと、自然に侵攻してきた。遂にきてしまったのだと、僕は左手のひらの中で眼球を歪ませていた。泣きようもない、喚きようもない、叫びようもない、絶望を形容しようもない、ただ僕は少しだけ甲高くて小さな呻き声を上げていた。入り口を解きほぐして行くように、絡み合った紐を解いて行くように、指が穴の中へと入って行く。
「うぐ…」
ゴム手袋をしていて、その彼女の爪は切ってあったのだが、爪の硬い感覚が少しばかり痛い感じがした。ただ感覚の中にはもう羞恥というものはなく、代わりに犯されているという恐怖が思い起こされたが、そのほかの感覚が快楽なのかどうかと言われると良くわからなかった。だが間違いなく言えるのは、さっきまでは乳首に集中していた「Mの感覚」が、「ただ触られることに関しては普通の感覚」であった筈のアナの方へ再び移行しているのだけはわかった。
指はほんの数センチ入った所で止まった。どれくらいまで入ったのかよく分からなかったが恐らくば、彼女の第一関節が入った所くらいなのだろうと予測した。何かの資料で見たことがある。アナには皮膚の一部の部分と腸の一部の部分があり、入り口の数センチのところにその境界があるという。アナの入り口の数センチより手前側は皮膚の一部であり『神経が通っている』が、その境界の先は腸の部分であり、『神経が通っていない』ため、痛み等は感じなくなるのだという。彼女の爪の硬さがまだ僅かに感じられたため、今まさにその境界の所まで侵攻したのだろう。ただ、なんとかギリギリ今この入り口に指が立ってはいるのだが、これ以上先に進まれるとこの爪の硬さとは別の痛みを伴ってしまうだろうと、確信があった。それはこの指もわかっていた様で「さてどうしたものか」と言わんばかりにその場で立ち往生している様に思えた。
そんなような事を僕は、呻き声を上げ続けながら、なぜだか冷静にそれを頭に思い浮かべていた。脳と身体が矛盾していた。意味がわからなかった。
入り口で侵攻を思惑しているその指はその場で鈍く動き続けた。解かれた紐を更に細かく解きほどく為に繊細に陵辱しはじめる。
「あれ?)
ふと僕は何かに気がついた。
注意深く観察しているギャラリー、そして陵辱する女の子たちが口にする。
「どうしたの?」
僕の中で、何か図式の様なものが頭の中に薄っすらと、しかし鮮明に浮かび上がってくるのがわかった。その図式を僕の全身体の筋が各々全自動で読み取り始めた。そんな様な感覚があった後、異変が起きた。
「…えっ!…勝手に!」
指を操る彼女が声を上げた。
「指が奥に吸い込まれて行く!」
この時僕はアナに指を入れられている自分が今取るべくための肛門周辺の筋肉の状態、足の位置、上半身の状態、呼吸の状態が、初めての経験なのに元々知ってたかのように脳に思い起こされ、体の緊張が恐ろしいほど抜けて、そのあるべく状態に沿うように持っていくことができていた。すぅっと奥に奥に入り口に立っていたその指が歩み進んで行くのがわかる。僕はいつも生活する時の様に呼吸をしていたことに何故だか疑問が湧いていた。
「あっちゅーまに…すんなり中指、奥まで入っちゃったよ…」
痛みの境界を抜けたのがわかった。終わったという感覚や、犯されてしまったという恐怖や嫌悪感情はほんの一瞬思い起こされたが、思い起こされたのは一瞬で、もうこの時は完全に未知な感覚が僕の体を支配していた。
頭は異常に冴えていて、またしても「酷く冷静」だった。顔を覆っていた左手を外した。両乳首をいじっていたはずの女の子達が先までのそれを放棄して、すんなり受け入れられてしまった中指を唖然として見ていたのが見えた。
「なんかさ、あれな。抜き差しは今はやめてな?これ間違いなく痛くなるわ。」
「わかった」
「見たか!おまーら!!ショジョ貫通キタコレやで!!!ゴレぇええぇ!!!ってちょま!!たんま!!人が話してる時に急に動かさんてや!おい!!……えっ?いやいやなんだよおまーらその顔は?」
ギャラリーの彼ら、僕を犯している女の子3人にボケなり笑いを取るくらい(いな、取ってしまうくらいに、まるで気分が異常にハイな状態でマシンガントーク営業をする時の高揚感ににたような感覚により)頭が回転していた。
中指が仰向けに寝る僕の上側へとくの字に曲げられた。その時僕はチンに異様な感覚を覚えた。尿意感のような、写生感のような、そのような感覚がその指の動きに合わせてちんの先に向かって現れたのだった。ああ、これが前立腺マッサージというものなのだと、知った。新たな感覚に恐ろしく感動し、絶望していた。この感覚を良く覚えておかねばならない。僕は瞬時にそれを悟った。くの字に曲げられるたび、その写生感が上に上にと発射されるような感覚があり、同時に中指がぼくの中で動くたびに僕のいつのまにか爪先までピンと伸び切ってしまった両脚を痙攣させていた。僕自身の脳には快楽だとか恐怖だとか興奮だとかそういったものは一切無くなっていた。僕の脳みそだけがとても透明に明瞭にはっきりとしていて、その状態とまるで意を反するように体が勝手に痙攣し、波を打つように写生感の連続の海へと放り出される。乳首の感覚も戻っていて、彼女たちに弄られるたび僕の体は勝手に蛇になったかのようにウネウネと動き出していた。
脳だけははっきりしていたから、状態を見ている彼ら、している彼女らに伝えることができた。ただ、だんだんとその言葉を発するための呼吸器系も、中を犯す中指に、乳首を弄ぶ舌や人差し指の動きに支配されていくのがわかった。時間がどれくらい経ったろう、音と視界だけは鮮明に聞き取れ映る。僕自身の声も聞こえてくる。まるで女の子のような高い音を持つ喘ぎ声を発し始めていた。
ギャラリーはいつのまにか僕の声だけをきくかのようにカーテンで仕切られただけの部屋の外に戻っていった。部屋には女の子3人と僕だけになった。
アナを続けられるうちに僕の目、口、肺、骨、耳といった脳以外の器官は全て機能が意識の範疇を超えてしまった。僕の右手は何かを掴みたいのか乳首を弄ぶ女の子の腕の袖を必死に掴んでいて、左手は頭蓋から湧いてでてくる何かを必死に押さえつける、押し込もうとするかのように不乱にコメカミ周辺を鷲掴みしていた。その腕や手の動きは完全に僕の意識化になく、勝手にまた別の女の子の袖を掴んだり顎や眉間を被せたりしていた。左手が動くたびにに僕の右隣で乳首をいじる女の子の顔が映った。とても嬉しそうな、しかし蔑むような、好奇と不信と支配の目を僕に向けているのがうつった。それをうつす僕の眼球は目の奥にある神経細胞を刺激し、焼き付けるようにうつった。火傷するかのようにうつるその感覚が眼球の涙腺を刺激し、僕のその視界をぼやかしていた。まるで何かを乞うような、そんな目の状態なんだ、と僕は知った。同時に漏れるその音も女の子が鳴く声なのだと、確信することもできた。
目の火傷とメスの声という知見を得ることによって同時に僕は気がついた。僕は今変性意識状態にあることを。幽体離脱している感覚だった。あまりにも明瞭になった僕の脳は精神だけが容易く体から分離しやすい状態になっていた。
考えることをやめると僕は完全に真っ白な状態になっていた。記憶を飛ばすような感覚だった。
写生感は何度も訪れた。何か出そう、という感覚が波を打つようにやってくる。だが、その出てきそうな液体は発射されることなく、ひいてゆき、また別の波を作って行く。「何回いったの?」と女の子が僕に告げる。数えてなんかいられなかった。「ヤク中みたいな顔をしてる」と言われた。その後左乳首をいじっていた女の子に膝枕をされた。
女の子は「だんだんと前立腺が降りてきた」と口にした。正直、前立腺を刺激することによる写生感のような波を打つ感覚は気持ちいいものなのか、よくはわからなかった。新しい刺激故、これを容易に気持ちのいいものだと認識して良いものなのかと白くなった脳みその裏で思考していた。ただ、力を抜き、思考をも変性意識を利用して飛ばしてしまえば側から見たら「気持ちの良い程に見える」「快楽に溺れている人」のように見えるであろうことは間違いなかった。だからこの状態で「気持ちいいですううう」だとか「もっと何々してください」だとか口にすれば、本物と呼べるえむが完成するんだなというものまで見えてきていた。ただ、そのようなものを「言語化せずに」行けるところまで行く必要はあるなと思った。女の子たちは「気持ちいいの?続けて欲しいの?」と幾度か聞いてきた。僕はそれに応えることはできたのだろうけれど、勿論答えなかった。この感覚を汎用的なものに「言語化」するのは勿体無い。
また同時に、波打つ写生感を超えて出てきそうなその液体を頑張って出そうと意図して下半身を力ませることもしていた。やはり男優であるから、エクスタシーを彼女らに見せねばならないなとは思った。(ぶっちゃけ収集がつかないくらいまで続けていたので終わらせたかったのもある)しかしその液体を放出させることは叶わなかった。本当に何かが出そう直前まで行くのに出る直前でそれが引っ込んでしまう。これは中指で犯す彼女のテクニックに問題があるというわけではなかった。自分のうちにあることなのだということはわかっていた。
僕は2時間もの時間穴を犯され続けていた。抜くときに、中指の長さに気がついた。まだ抜けない、まだ抜けない、まだ抜けぬのか、あぁようやく抜けた、そンな感覚だった。便をする感覚と同じだった。終わった後は随分とぐったりしていて、彼女たちにタオルを投げ込まれた。女優さんに僕らが普段しているかのようにアフターケアーを丁重に扱われていた。脳の明瞭状態はすぐにもどった。一息ついて、僕はそさくさとシャワールームへと向かい、この感覚の精査を行なった。
「どうだった?気持ちよかった?」
みんな眠ってしまった場内でタバコを吐く、「指を入れた彼女」が僕の目を見ずに言う。
「あの感覚を気持ちが良かったと形容していいのか、ちょっとわからないかな」
「うん」
「俺は女の子ではないから、確実な共感を得たと言うわけではないのは間違いのないことなんだけれど、女の子の気持ちが少しだけわかった気がするんだよね」
「普通は男が入れる側、女はそれの受け身だからね」
「そうだね。初めて受け身側、入れられる側というのを擬似的にだが体感した気がする。女の子のセックスって、精神的にこんな感じなのかなってほんとチラッとだけどわかった。」
「うん」
「だから気持ちいいとか不快だったとかそういうのではなくて、すごく勉強になった。つまんない解答になっちゃったけども」
「つまんなくないよ。入れられて初めて気がつくことがあったでしょ」
「そうだね。女の子側の感覚を知ることができたから。」
「それ知ってる人ってセックスがうまい人だよ。自分が体感としてツボを知ってるから、リアクションだとか表情、声だとかで気持ちいポイントが探れるようになる。普通の男は知らないからね。女の子の殆どがセックスでいけないのはそのせいなのよ。もっと上手くなってくと思うよ、君」
「今夜の経験、男優として今後に活かしてみせますわ。大事なことを知ることができましたよ。ありがとう、本当に」
帰りに冒頭で僕を陥落させた仲間の男優に「いやぁ処女卒ですわ〜、ついにやっちまったわ君のせいで〜」とドヤしたら、『ヴァイヴやモノホンのチンを入れてないから、処女喪失とは言えない』らしい。
拘りとは何とも面倒な話だ、と、牛丼と片手にあるこのスマホに映し出される文字、彼の話を念仏を聞く豚耳と共に書き込んでいた。無意識でピンと張り過ぎた僕の両脚は、その翌日から後3日ほど筋肉痛に悩まされ、仕事で写生をするのに少しばかり手間取ることとなってしまった。