愛と寂の輪廻 2、2さん
- 2016/12/23
- 20:43
まずは私の知る2さんの紹介をしておこう。私はクラスタ一期生と呼ばれる世代の古株で、発言力のある彼にツイッター上で何故か気に掛けてもらっていた。最初の関わりは確か
「パヒュームの二番目にブサイクな女は誰だ」
という、なんとも言えない馬鹿さ加減の話題で盛り上がって…だったと思う。そこから関わりを持ち始めた…という訳では多分なくて、僕が高石さんの本を読んで、感想を書いて、それが偶々彼の目にとまり…そこから、からなのかもしれない。かなり曖昧なのだけれど、僕が2さんを知るきっかけになったのは、当時まだ会ったことのなかった高石さんに関する話題でなのは違いない思う。
彼は私とは真逆で、ツイッターではあまり呟かず、時たま何か意味深な発言をタイムラインに残していく。その内容は哲学というには何か足りず、世間や人への批判文句というには何か達観したような、そんなような呟きを青と白の画面の上に残していた。私はそれに惹かれた。微妙で絶妙な曖昧さ。白でもない黒でもない、そんな発言。どちらかと言えば黒よりの灰色。凄く「ナンパ師」であり、誘惑者らしい人間。そんなイメージがあった。
彼はツイキャスもしていた。営業した女の子とのキャスだったり、合流した営業師達だったり。初めて彼のその声を聞いた時、少し巻き舌っぽく、そしてゆっくりと余裕があるようにしゃべる感じが、何だかかっこつけたような声だなぁと失礼にも思ったりもしていたが、彼の話す言葉を聞いていると、ツイッターの文字上で描いていたイメージと絶妙に絡み合ってきていて、あの声はもはや意図的に作り出している声ではなく、無意識下から発せられた言葉なのだなというのはわかった。文面上と音声のあの言葉は、数々の経験を積んできたからこその結果によるものなのだと、そう思ったのだった。
そんな2さんに僕は、東京に住み始めたら早いうちに会わねばならないな、と埼玉でのうのうと過ごしている時に常々感じていた。そしてその時が来たので、私は思い切ってダイレクトメールを送ってみた。うまいことアポ取りができて、ラインを交換した。ライン上にイケイケな風貌のメンズが表示された。彼がぼそっとツイッターで「太った」と呟いていたきがするが、私はつい「嘘やん」と口に出していた。少し緊張し始めていた。
某日某所。
僕は2さんとファーストコンタクトの準備を完了させた。あたりを照らす光子が夜仕様と切り替わった待ち合わせスポットで私と同じく待ち合わせをしている女の子に営業する。和み続けていると待ち合わせの時間よりも幾分か遅れて物腰の低い男性に声をかけられる。
「こんばんわ。QBさん?」
「あっ」
声をかけられたその瞬間、営業のスイッチが急に切れ、その彼への方向へ体を向けて確認する。唐突に浮かび上がった驚きとハテナマーク、そして左隣にある緊張感を残しながら私はゆっくりとその場に立ち、
「どもっ!こんばんわ!」
と、両者になんとも言えぬ気まずい挨拶を返し、その後
「じゃぁね、ありがとう!」
と、左手の違和感である彼女を意識から排除した。
その場から立ち去り彼の元へ着く。左の緊張感から解放されたその直後、その緊張は彼からのものへと移行していた。彼は混乱しているのか驚いているのか様子を伺っているのか、わからなかった。
「改めまして…QBと申します、よろしくお願いします!」
某玄坂を登る途中その申し訳なさから丁寧な言葉選び、そしてはっきりとした口調を作り、私は彼との会話を始めた。
「こちらこそ、2です。よろしく。」
彼も少し引きの姿勢で、しかし形としては笑顔であったか、私と同じくそう改めての自己紹介をしてくれた。
「ごめんね、遅れちゃって。シャツのボタンが外れちまって急いで直してたんだ」
そういうと2さんはシワの少ない綺麗なフォルムのシャツの正中線であるボタンの並びを僕の方へチラつかせてきた。時間が押していたのか一つだけ留め損ねてしまったらしい。
彼の姿はラインのトップ画像のそれと比べると少しばかりふくよかになっていたような気がした。彼の真横から見るシャツ正面の正中線は少しばかりタイト目に張っていた。恐らく生活が落ち着き始め、あまりストに出なくなったからかもしれない、そんな事を勝手に脳裏に浮かべた。
「いえいえ、そんな、自分は大丈夫ですよ。あの、こんなこと言うのは失礼で、初めて会う人に言うのはとてもおかしな話なんですが」
「はい、なんでしょう?」
「2さん、太りました?w」
「いやーそれはね…w」
私達は道玄坂を超えて、ホテル街にあるとある居酒屋へ足を運んだ。
某所、居酒屋。
二人で生ビールを頼み、乾杯する。
正直何を話せば良いかよくわからない。言葉を放つ口が少しばかり硬さがあるように感じた。僕は当たり障りのない会話から開始する。
「このお店、いいですね。ガヤついているけれど、ホテル近いし」
「そうそう。ここはね、結構アポで使うナンパ師が多いんだよ」
「おお。ってことは誰か…いるかな?」
「いるんじゃない?」
2さんは僕とは違い比較的落ち着いているようで、それを見て僕も少しずつ馴染んでいく。ツイッターで絡んでいた分、すぐに緊張も解けたのかもしれない。
「自分、東京越してきて、まず最初に2さんに会わなきゃなって思ってたんです。今日それが実現できて、本当ありがとうございます」
「いやいやこちらこそ。俺もね、会おうなって思った矢先だったから」
「でも昨日急に飲みましょ!だなんて急なアポ、言っちゃってすみません…!」
「大丈夫大丈夫!w」
この居酒屋では彼とはあまり「ナンパの事について」は話さなかった。どういう経緯で「ナンパ」を始めたのか、ツイッターを始めたのか、そんな挨拶に近い会話を先に済ませた後は、僕たちの共通の話題である「高石宏輔」についての話を沢山した。僕は高石さんと2さんの関係性について凄く気になっていた。高石さんと2さんは飲みに行ったりする仲だと聞いていたからだ。
「俺ら、高石さんのことだいぶ好きだよね。」
「そうですね。ナンパをやめた人に抱く気持ちでは断じてないのですが、尊敬みたいな感情があるのかもしれません」
「高石教だなーw」
「ですねw」
高石さんの事以外にも僕は彼に対して気になっている事があった。
「2さんって、普段どんなセックスをしていますか?」
「どんなセックス?」
「はい。今まで凄く気になってたんですよ。2さん、たまに凄く変態ちっくな事をツイートしてたりするじゃないですか。なんだっけな、女体盛りとか、体に〇〇つけて舐めるとか、アップはしてないけどハメ撮りとか」
彼は不思議そうな顔で僕の方を見ていた。口を閉じ相槌はなく、静かに、僕の発する彼へ対する何かを淡々と吸収していたように思う。口の硬さがいつの間にか完全になくなった僕は彼に対する彼への思いを、X杯目のハイボールを一口入れ、一気に吐き告げた。
「2さんってナンパに対する発言がとても曖昧なんですね。ふわっとしてて、嫌悪感を受けずに自分の方へ引き込んでいるような。それがとても、俺が思う理想的な誘惑者みたいなのを体現していて、凄く良いと思っているんですけど、ことセックスに関する話題になると、何か、この、なんというか…ナンパで作り出したぼやけた曖昧さの中に潜む、2さんの持つ狂気が見え隠れしているように感じるんです。2さんのそういうとこが俺は凄く好きで、同時に凄く知りたいなって思うんですよね。2さんの本質だとかそういった類のものが、そこにあるような気がするんです」
2さんはわらって
「なるほどね」
と言った。僕の思いを全部ぶつけられたのか、不安になった。
その後は互いのセックスの話、おナニーの話などをし、店を後にした。
少しだけ一緒に営業をした。
彼は僕にアドバイスをくれた。その中で一番気になったものは
「言葉に熱が入ってない」
だった。
よく聞く「初心者ナンパ師」の問題の一つだった。男優業でもよく言われている問題の一つだったため、困ってしまった。そのアドバイスの後、もう一度トライをしてみる。
「いいね!さっきより良くなってるよ!」
そう言われた。
ほんとだろうか、僕はそう思った。感触が、実態が、何もないものをつかんでいるような感じがした。
女の子をつかまえることができず、僕らは二件目の居酒屋に入った。
彼はすごく気遣いが効く人だった。居酒屋のメニューは僕にすぐ渡してくれるし、箸も僕の目の届かぬところで取り出し、スッと「はい」と渡してくれた。僕はその2さんに感動した。
「女の子になったかの気分ですよ」
「ははは」
二件目の居酒屋ということで色々なグレーゾンな話をした。2さんはよくツイキャスで放送をするが、とてもじゃないが配信できないような、そんな内容。
「じゃぁツイッターナンパシで嫌いな人トップ3!挙げてみよう!」
そんな話題になったとき、僕はあることを閃いた。僕は僕が嫌いだなと思うアカウントを二つほど上げながら、この話題に乗じて、2さんに抱いていたある疑問を払拭させるために仕掛けをすることを目論んだ。
2さんに感じる「何か掴めないような抽象さ」を具体的なものに炙り出す、そんな危険なこと。
「2さんは、どうなんですか?」
そう、簡単に言ってみた。
2さんが止まった。
2さんの嫌いな人を一人だけ聞くことができた。居酒屋をでると2さんは
「さっきQBにめちゃくちゃ中身晒されちまったよ、今すごく動揺してるわw」そう笑いながら僕をスクランブル交差点に案内してくれた。
そのあと某凄腕さんと仲間の方と鉢合い、六本木で4人でクラナンをして、別れた。某凄腕さんはとてもよくわからない人だった。