愛と寂の輪廻 3、花見
- 2016/12/24
- 10:44
数日後、僕は2さんに花見に誘われた。代々木公園で色々な人と営業をするのだという。僕は快諾し、その「合同花見ナンパ」に参加した。その中にZさんもいるという。Zさんといえば講習も行なっていた界隈では凄く高いところにいる方だ。胸が高鳴っていた。
真っ暗な世界にライトアップされた薄桃色の木々の下に皆が集まっている場所があった。数人の男がブルーシートを取り囲んで談笑をしていた。しかし彼らはなぜ座らぬのだろう。そんな疑問が真っ先に浮かんだが、このブルーシートが会場なのだと知り、赴いた。
5.6人いた。その中に2さんはいなかった。聞いたところ、早速声掛けに出かけているという。
僕は周り皆が初めての人ばかりなので個々に挨拶をした。僕がフォローしている凄腕と呼ばれた方々ばかりであった。
「Gです」
身長が高く濃い顔をしている彼は学生営業師として当時有名だった方だった。彼は何やらテンションがかなり低く、まるでコミュ障が頑張ってオフにやって来たかのような風貌となっていた。というよりは何か気まずそうな感じがする。何かあったのだろうか。
「君がQBくん?」
端っ側から声をかけられた。
「Zです。よろしくね」
爽やかな笑顔の彼が噂のZさんであった。僕らはお酒をほどほどに飲みながら近くのグループに接近したり、道行く子達に声をかけたりしながら次第に散り散りになった。僕はZさん、そして彼の元講習生、教え子だというwくんと共に「ナンパ」を始めた。
Zさんは強烈だった。間違いのない凄腕なのは明らかだった。上京して来たばかりという女の子グループに入ったかと思うと、酔っ払いの一人の女の子を三分ほどで僕らの目の前で口説き、
「じゃあこれはできんのか?」
とぐっと女の子を抱き寄せたかと思うとディープキスを始め、自然としれっといつのまにか、人混みと桜茂みの中にへと消えて行った。僕は彼らを邪魔させぬためにもその女の子の相方の子を口説いた。残念ながら即ることはできなかった。
放流をし、「野良の二人組」の男の人たちと声掛けをしていると、セックスをし終わったであろうZさん、そしてwくんと会った。話によると簡易公衆便所でやってきたという。そのあとw君にオコボレのパスをしたようだった。「すげーいい子だったよな」とZさんは満足げに「自分からしゃぶってきましたもんね」w君はそれに同意した。彼らは鼻息を荒げながら、興奮気味にセックスの内容を話していた。僕はそんな話は耳に少しも入らなくて、初めて見た他の人の「弾丸即」にただただ感激し、また同時に彼の誘惑の手法、そしてその技術に、ただただ感動した。彼が自称する『誘惑者』。それは嘘偽りのない事実であり、即というものは物語上でしかないという虚言をぶち破る出来事であった。
「えっ、QBさんやらなかったの?!なーんだよ、言ってくれれば回したのにw」
彼はそう口にした。誘惑を目の当たりにした僕は完全に上の空だったので呆気にとられた。
「いやいや、僕は別にいいんですよ。みんなの荷物とか見張ってなきゃって思いまして」
「もったいない。折角だから楽しまなきゃ」
その後zさん、wくん、僕でカレー屋さんに行った。そこで随分と色々な話をした。
「あのガキとかほんとありえないよな、ああいう連中が勘違いをしてレイ◯まがいなことをしはじめる」
「誰ですか?」
メシが来るまでの間、怒りでか興奮でか、口数が止まらないZさんのその言葉に僕は質問をする。
「G君のことですよ」
代わりにwさんが答えた。
花見の時にG君に感じた何かの違和感がわかった。どうやらZさんとの衝突があったようだった。
「俺がナンパしてる時にのこのこやって来やがって。」
「迷惑ですよね。誘惑の手順がわかっていないっていうか」
「オコボレでセックスがしたいのがバレバレなんだよね。そーゆー即系ホント気色悪い。即系しか即れない最近ウロついてる典型的なしょーもないナンパ師なんだよな。」
彼らは即後の興奮を維持していた。維持をしながら彼らは陰口を始めたのだった。
Zさんとwくんのやりとりに僕は何も同意をせず、そうですね、と相槌がうつ。いや、相槌しか打てない。会話に入りづらい。彼らは喜ばしくそんな言葉をやすやすと吐いていく。あまりよくない空気になっているのは十分に感じた。僕はG君本人ではないのに、胸が痛くなった。
一旦この空気を切りたかった。ただ、ここは言葉には気をつけねばならない。反論はせず、同意を献上する。僕はなんのためにここに来たのか。凄腕の魅惑師の技術をZさんから得るため学び取るためにやって来たのだ。
「僕も最近のナンパシですから、Zさんたちが仰ること、とてもよくわかります。」
切り出すと二人はスッと僕の方へ目を向けた。視線が集まる。
「…とても耳がいたいです。正直ここにいていいのかなぁって不安になってしまいます」
「QBさんみたいにこうやって話が聞けてこういうとこにまでやって来れる人は大丈夫だよ」
zさんから市民権は得れたようだった。ただ陰口の会話の市民権はあまり喜ばしいものではなかった。
「2さんは今頃アポ中ですかね。即れればいいんですけど」
せっかく得た市民権を行使し、僕はこの場の空気という会話に切り込みを入れる。
「2さんねぇ…なんも言わず自分勝手にナンパしはじめやがって。あいつもあいつであり得ねーよな。楽しく花見しに来たんじゃねーのかよって思うわ。結局あいつも同じただの猿ってことだ」
別の陰口が始まってしまった。
「てかさ、あんまあの人のこと信用できないんだよね」
「信用できないんですか?」
僕は食い気味に聞いていた。
シャツ下に潜む僕の皮膚がなぜかひりついていた。
「そう。一緒に飲んでた時があって、2さん酔っぱらっちゃって。んで、その時たまたまスマホの電源がつけっぱだったからこっそり見ちゃったんだよね。カメラロールが開いてあってさ。そこに滅茶苦茶ハメ撮りがあって。あいつがハメ撮り好きなのは知ってたんだけど、初めて中身をみたんだよ。で、その女がみんなブスばっかだったのさ。ブスの女体盛り、そんなんばっか」
僕はとんでもないことを聞いている、この場にいてはいけないことをそれを聞いてから気がついた。当たり前だがもう遅かった。
「すげーショックだったぜ?だからそっからだね。俺は2さんを信用しなくなった。なんか聞いても即を聞いても『あっ、ふーん』って温かい目で見つめるように流すようにすることにした。」
罪悪感が僕全体を覆っていた。メシが来ていた。陰口は止まった。皆でシェアしながら食を始めた。
「うめーなこれ!」
彼らはそういうが、僕はどんな味なのかもよくわからなくなっていた。
メシが残り少なくなって来た頃2さんがやって来た。息を切らしていた。
「ごめん、道迷っちまって。QB誘っておいてゴメン」
「いえいえ」
「即った?」
Zさんが笑みを見せながら聞く。この笑みは今の僕には恐怖に見えた。
「カラオケ連れ出したんだけれど、そのあとうまくセパれなくて、今に至る感じ。」
「ふーん。てか連絡しろって。」
「ごめんごめん。スマホ電池きれちゃって地図はひらけなくてさ、道聞きながら来たんだよ」
「道聞きナンパかw」
「いやナンパじゃないけどさ、これ。俺今日クラッチバック持ってるからだとは思うんだけど、キャッチと見間違えてるんかな、どうも声かけても全然反応悪くって、だーれも教えてくれないからさ、スッゲー迷ったんだよね。」
そう話す2さんはここにいる僕ら三人の誰一人として目を合わせようとしていないことに僕は気がついてしまっていた。その後2さんも交えて「ナンパの話」をしていた。僕は今度こそこの場で喋ることができなくなっていた。Zさんには畏怖とただならぬ禍々しい感情を覚え、同時に僕は悲しいことに間違いなく2さんへの尊敬の目線が消え失せているのがわかった。僕は間違いなく良くないことをしていた。この良からぬ空気を吸いすぎたのだ。ここの場所に留まり過ぎたのだ。
会計時、wくんが細かいお金がないらしく僕が代わりに彼の分払った。2000円のツケ。彼と今後会うのかどうかもわからないのに、というか会う確率の方が低いのに訳がわからなかった。
「あとで払うんで!すんません!」
渋谷のスクランブル交差点で「花見ナンパ」が解散した。
*ちなみにwくんとは何回か会うことがあったが、ツケは未だ返してもらってない。はよ返してください。