偽りの母性
- 2017/04/16
- 11:43
偽りの母性
某日。
某所。
某制作。
母親に官能小説を読んでもらうという設定。女優さんは緊張をしているのかつっかえつっかえな読み方をする。僕自身の顔は映るものではないから、じっと彼女を見ることにしていた。目の前で本を持つそのか細い指を見る。小指が攣ってしまいそうなくらい立っていた。
本を読み進めるにつれて彼女はうまく喋って行く。つっかえは所々直らないものの、緊張が抜け落ちているのは容易にわかった。本を持つ小指の腹がちゃんと本の表紙に付着していた。薄いピンクのネイルにシンプルに引かれた一本の金色のラインの煌めきが夜冬のイルミネーションを思わせた。
官能小説は卑猥なシーンへと突入した。読み進めるスピードが落ちて行く。僕の母親役である彼女は「恥ずかしい…」と小さな音を漏らす。本で顔を塞ぐにもその文字に近寄ることすら恥じてしまうかのような、そんな羞恥が僕の目に映った。緊張がまた戻ってきている。やはり小指がピンと伸びきってしまっていた。
だが読み進めるにつれて慣れるものである。小指は本の表紙に触れ置かれる。緊張が解かれるとともに母は自分の発するその言葉に吐息を支配されて行くようになる。作中の女性が話すその言葉はまるで母自身の言葉のように、作中のまだ幼い男の子の言葉はまるで母自身の欲求の言葉のように思わせる。
母の口から出されるつっかえつつも肉がつき息を吐くかのような卑猥な言葉を聞き、目の前にいるその息子は己の変化に気がついてはいなかった。息子のズボンには山が張られてしまっていた。母はふとした時に気がつく。言葉を失う。でも読まねばならない。続けようとする。が、その読むスピードは当然のごとく遅くなっていく。また小指がピンと伸びきっている。
遅くはなりつつも読み進める度に文の言葉と今この場に置かれた自分の状況が同じものであることに母は段々と気がついて行く。母は目の前に張られている山を見ながら小指が攣っている手を伸ばしてゆく。そこからは言葉の付かぬ卑猥な音が母の読む音読に合わせてこの場の空気を包み込んでゆくのであった。
「ねえ、私、私と君との官能小説を作ってみたの。聞いてくれる?」
熱り立つ肉棒は歪んでしまった母性の中へと沈んでいくのであった。
avの絡みの撮影で僕は役に落ちてゆくような感覚に陥る。これはそんな落下感覚のほんの一例だ。女優さんがだんだんとその役柄上の設定上の人物に見えてくるようになってくる時が最近増えてきたように感じる。これが役に入るという状態なのだろうと思った。とはいえ役柄に脳が完全に支配されると言われたらそうではなく、カメラ周りと台本の進行はなるべく客観的に見ようとする自分も確実にいて非常に不思議だ。ゆくゆくの理想としてはカメラワークや台本進行は無意識下による感覚で感知し、それに合わせて動いてゆくようにこれからも仕事に精進して行きたい。
ふとこのような書き方で進めて行くavレビューを考えたのだけれども、需要がどこかしらにあって、なおかつ僕自身のヤル気が続くようであれば今年はこんな取り組みもして行きたいと思った。