思い出の卒業式
- 2015/08/18
- 00:16
部屋の整理整頓をしていた。
そんな中、藁半紙のブックカバーに包まれたある一冊の文庫本を見つけた。それを見つけて手に取る。購入時に書店でつけてくれる藁半紙のブックカバーには落書きのように書きなぐった文字が書かれている。一文字一文字を見ることはしない、なにが書かれているか、もう私にはわかっている。そんなぺらぺらに薄い藁半紙を見て瞳孔が震えた。そのブックカバーを丁寧にはがしていく。指先がぎこちなく動く。
文庫本はある子が愛してやまないといっていたある小説。彼女の考え方や価値観はこの本に由来されたものであったと、私はこの本を読了してきがついた。
開いたブックカバーには左に私について、このプレゼントについて一言一言を乱雑にまとめた殴り描きが、そしてその左には彼女が作ったと思われる詩が書かれていた。彼女がこれをプレゼントとして私に渡した真意の程は未だ分からない。本だけならば何の問題もないのだが、このブックカバーはあまりにも恥ずかしい内容が書かれているからこのカバーをつけたままこの本を自室以外で読むことは周りの目線からして困難なものになる。だが周りの目線から見たらそんな物だとしても、少し前までの私にとっては、この本とブックカバーは本当にかけがえのない宝物としてずっと本棚に鎮座していたのだった。
今目の前に捨てるべくものとして私の目の前にそれがある。前述の通りブックカバーとして役割を果たせないし、びっしりと余白面に文字が書かれているためメモ帳の代わりにすら使えないからだ。
本自体の内容も大変くだらない。
興味深い内容テーマではあるが、二番煎じで、最後のオチはいわゆる「俺たちの戦いはこれからだ」だとか「読者様のご想像にお任せします」だとかの類の、投げやりエンドである。私は読了後、はぁ?と口にした記憶がある。本を捨てるのはなんだか勿体無い気持ちがするから、ブックオフに売り飛ばすべくものだろう。
なのだが。
これを排除しようとする私の手は止まった。何故だ。当たり前だ。後ろめたさがあるからだ。まだ未だ、実の所、本当の所は、非モテコミットをしたあの彼女のことが忘れられずにいたのだ。いくつもの罵声を浴びせたり落胆行為をさせ心を揺さぶり、いいことを言った風に見せておいて、でもひどい別れ方をしておいて、記事にまとめてこれからは一流の営業師として生きていく、と宣言しておいて、こんにちはよろしく外道と挨拶をしておきながらも、なお、彼女のことが忘れられずにいる。それが今私のこの手を葛藤させているのだ。
思ってみれば私の気持ちや、あの女の子の記憶なんて物は薄っぺらいくだらない物の筈だった。今だから違う視点から客観的に見えよう。中身はスカスカで、虚構で、1円にもならず、むしろブックオフに売り飛ばしても無料での引き取りすらお断りされてしまうのではないかと思われるくらい粗雑でくだらない物であった。倒産した会社の株券と同じ。そんなものを手放すという、して当然な行為を私は躊躇っていた。そんなものに売る値も付けられぬくらい重き価値を置いていたのは紛れもなく私自身だったのだから。
このブックカバーに手を伸ばせば伸ばすほど、私の胸の奥でなにか球体で出来たものが、すごい勢いで回転していくような感覚に陥る。感情として凄くネガティヴで、あまりにも黒と白が主張しすぎた灰色で異常なまでに汚らわしい色の球体だ。それが回転を重ねる度にその周りを包む臓器や肉がドロドロと粘性を持つ液と化していくかのような。それは次第に波を打ち、渦を巻きながら私の喉元の感覚を詰まらせていく。
捨てたらダメだ、自分が死んでしまう。
捨てなきゃダメだ、自分が生まれない。
二つの言葉が私の気持ちや感情、身体感覚として反芻していく。
人はある現象から逃げることができる。自己の存在を保つために、自己を変えないようにするためにある現象から逃げる。だがその現象は不思議なことにまた己に降りかかる。はじめに逃げた人はまた逃げる。そうやって逃げ続けることで人は変化をせず人として形を保ち続ける。私はブックカバーを破かないことで、昔の気持ちと向き合わずに、己の形を変えることのないまま生きていくことができる。
だが逃避には限度がある。
いつか、逃げ切れなくなるときがくる。そんな時、人は、今まで逃げるべくして逃げていたある現象に対して、どんな行動に出るのだろう。このブックカバーがある限りそれは私の人生の枷となり続け、いつか私が生きていくこと止めてしまうきっかけになってしまうだろう。
私はその時になったら、己の存在とともにこのブックカバーを破り捨てよう。いとも容易く簡単に。だって紙を破くなんてことは赤ん坊でも犬でも猫にでも出来る簡単な行動なのだから。
このブックカバーを破こうとすると様々な感情が湧き巻き起こるから面白いと思った。だが、そんな茶番はもうやめにしよう。破くその時に感じる感情、破いた直後に抱く感情、その心の変動、そしてどんな破き方をし、眠りにつくのか。今の私には分からない。しっかり記憶に焼き付けておこう。私にとってはきっと、重要なことなんだろうから。世界からあなたが消えたのなら、私は新しく生きていくことができるのだから。
そんな中、藁半紙のブックカバーに包まれたある一冊の文庫本を見つけた。それを見つけて手に取る。購入時に書店でつけてくれる藁半紙のブックカバーには落書きのように書きなぐった文字が書かれている。一文字一文字を見ることはしない、なにが書かれているか、もう私にはわかっている。そんなぺらぺらに薄い藁半紙を見て瞳孔が震えた。そのブックカバーを丁寧にはがしていく。指先がぎこちなく動く。
文庫本はある子が愛してやまないといっていたある小説。彼女の考え方や価値観はこの本に由来されたものであったと、私はこの本を読了してきがついた。
開いたブックカバーには左に私について、このプレゼントについて一言一言を乱雑にまとめた殴り描きが、そしてその左には彼女が作ったと思われる詩が書かれていた。彼女がこれをプレゼントとして私に渡した真意の程は未だ分からない。本だけならば何の問題もないのだが、このブックカバーはあまりにも恥ずかしい内容が書かれているからこのカバーをつけたままこの本を自室以外で読むことは周りの目線からして困難なものになる。だが周りの目線から見たらそんな物だとしても、少し前までの私にとっては、この本とブックカバーは本当にかけがえのない宝物としてずっと本棚に鎮座していたのだった。
今目の前に捨てるべくものとして私の目の前にそれがある。前述の通りブックカバーとして役割を果たせないし、びっしりと余白面に文字が書かれているためメモ帳の代わりにすら使えないからだ。
本自体の内容も大変くだらない。
興味深い内容テーマではあるが、二番煎じで、最後のオチはいわゆる「俺たちの戦いはこれからだ」だとか「読者様のご想像にお任せします」だとかの類の、投げやりエンドである。私は読了後、はぁ?と口にした記憶がある。本を捨てるのはなんだか勿体無い気持ちがするから、ブックオフに売り飛ばすべくものだろう。
なのだが。
これを排除しようとする私の手は止まった。何故だ。当たり前だ。後ろめたさがあるからだ。まだ未だ、実の所、本当の所は、非モテコミットをしたあの彼女のことが忘れられずにいたのだ。いくつもの罵声を浴びせたり落胆行為をさせ心を揺さぶり、いいことを言った風に見せておいて、でもひどい別れ方をしておいて、記事にまとめてこれからは一流の営業師として生きていく、と宣言しておいて、こんにちはよろしく外道と挨拶をしておきながらも、なお、彼女のことが忘れられずにいる。それが今私のこの手を葛藤させているのだ。
思ってみれば私の気持ちや、あの女の子の記憶なんて物は薄っぺらいくだらない物の筈だった。今だから違う視点から客観的に見えよう。中身はスカスカで、虚構で、1円にもならず、むしろブックオフに売り飛ばしても無料での引き取りすらお断りされてしまうのではないかと思われるくらい粗雑でくだらない物であった。倒産した会社の株券と同じ。そんなものを手放すという、して当然な行為を私は躊躇っていた。そんなものに売る値も付けられぬくらい重き価値を置いていたのは紛れもなく私自身だったのだから。
このブックカバーに手を伸ばせば伸ばすほど、私の胸の奥でなにか球体で出来たものが、すごい勢いで回転していくような感覚に陥る。感情として凄くネガティヴで、あまりにも黒と白が主張しすぎた灰色で異常なまでに汚らわしい色の球体だ。それが回転を重ねる度にその周りを包む臓器や肉がドロドロと粘性を持つ液と化していくかのような。それは次第に波を打ち、渦を巻きながら私の喉元の感覚を詰まらせていく。
捨てたらダメだ、自分が死んでしまう。
捨てなきゃダメだ、自分が生まれない。
二つの言葉が私の気持ちや感情、身体感覚として反芻していく。
人はある現象から逃げることができる。自己の存在を保つために、自己を変えないようにするためにある現象から逃げる。だがその現象は不思議なことにまた己に降りかかる。はじめに逃げた人はまた逃げる。そうやって逃げ続けることで人は変化をせず人として形を保ち続ける。私はブックカバーを破かないことで、昔の気持ちと向き合わずに、己の形を変えることのないまま生きていくことができる。
だが逃避には限度がある。
いつか、逃げ切れなくなるときがくる。そんな時、人は、今まで逃げるべくして逃げていたある現象に対して、どんな行動に出るのだろう。このブックカバーがある限りそれは私の人生の枷となり続け、いつか私が生きていくこと止めてしまうきっかけになってしまうだろう。
私はその時になったら、己の存在とともにこのブックカバーを破り捨てよう。いとも容易く簡単に。だって紙を破くなんてことは赤ん坊でも犬でも猫にでも出来る簡単な行動なのだから。
このブックカバーを破こうとすると様々な感情が湧き巻き起こるから面白いと思った。だが、そんな茶番はもうやめにしよう。破くその時に感じる感情、破いた直後に抱く感情、その心の変動、そしてどんな破き方をし、眠りにつくのか。今の私には分からない。しっかり記憶に焼き付けておこう。私にとってはきっと、重要なことなんだろうから。世界からあなたが消えたのなら、私は新しく生きていくことができるのだから。