【北海道ナンパツアー1日目】北風と泥に消えゆ
- 2015/11/28
- 21:41
某日。早朝。新千歳空港。そこに私はいた。
人生初の北海道。そしてローカル地方での営業。同業者との交流。そして三ヶ月ぶりのシンジさんとの再開。これから何が起こるのだろう、何を得られるだろう、何即できるだろう、どんな出会いがあるのだろう、どれだけの経験を積むのだろう。様々な疑問が期待と楽しみとなって頭の中に広がっている。
大金を出しただけはあった、とそう思えるツアーにしたかった。まるで納涼船の時に抱いていた思いとそっくりであった。まるでそっくりであるから、この先苦しみや辛さが待ち構えているのはもう何と無くは把握している。そんな未来を把握しているけれど、果たしてどんな過程を経てその未来となるのか、私にはちっともわからない。だからとにかく今は前に進もう。そう思ってここに来た。
ちょうどお昼時に1人目の仲間がやってきた。
fさん。おしゃれでなにかの俳優似のイケメンだった。ラーメンを食べるのを大変楽しみにしていたようで、折角なので昼のラーメンを食べに行く。そこでお互いの営業についての話をきいたり話したりしあった。
ラーメンを食べ終わり、空港を散策、フードコートにて水を飲みながら待っていると
よっ
と声をかけられる。
シンジさんであった。メガネをかけていてスーツにシャツ、スウェット生地のズボン。綺麗な身なりで相変わらずオーラを感じ取れるが、声をかけられて振り向いたほんの一瞬、誰なのかよくわからなかった。
「マジでその格好できたんですか?笑」
そんな質問をする。どうやらシンジさんが今着ている上着はそのスーツとシャツ2枚だけらしい。明らかにこの格好は雪国仕様ではない。
「おう、向こうで買う」
笑顔でシンジさんは言った。
シンジさんの後ろには2人目の仲間がいた。1人はhさん。優しい雰囲気の青年で、ぱっと見の印象は青◯学院大か上◯大にいるような英語得意そうな大学生、という印象をもった。大学が当たったかは知らないが、確かに彼は一時期外国を飛び回っていたらしかった。もう1人はyさん。あれどっかで見たことある…顔。よく思い出したら納涼船の最終日の講習で一緒になっていた方だった。ペアではなかったためあまりお話する事ができなかったが、同じ船上を共にした仲間ゆえ、久々に会えて嬉しかった。
しばらくしてもう1人の方が来た。びっくりした。肌黒く、しかし美しい肌、脱色されたされた明るい髪。汚れのない真っ白のスニーカーとコート。誰が見ても明らかなギラツキのある風貌をみて私は恐怖した。ヤベェ人が来た、と。怖くて初めましてと挨拶ができなかった。名前はbさん。シンジさんがちゃん付けで呼んでいるところから、かなり仲の良い関係なんだなと思った。
シンジさんの下にはいかにも彼のようなギラギラした風貌の人というよりは、見た目は如何にも普通なhさんやfさんのような学生と、yさんのような普段は真面目なサラリーマンのような人たちが多いようなイメージだった。イメージなだけで本当にそのような学生なのか職業なのかはわからないが。しかしよく考えてみれば、納涼船で一緒の相方となってくれた2人のA君は、このブログで名称を同じにしてはならぬ程、明らかに別々のタイプだった。見た目からは共通点は見当たらなかった。シンジさんの元に来る人たちとは各種ジャンルバラバラの人間たちなのだろうか?だが、どうも何かしらの、見た目からは判断はしにくい共通点が我々にはあるような気がして仕方がなかった。
シンジさんを中心にして、自己紹介も交えながら軽い雑談をしていく。
実は講習生じゃない人が半分を占めるというマジモンの寄せ集め傭兵軍団であるということ、流星チームとの対決としてあるが第一優先に考えることは目の前の女の子に集中をするということ、それとそれぞれの現状確認。
「QBは三ヶ月ぶり。最近どうなの?」
「納涼船から変わってません」
「あれからナンパはしてきてなかった、て事だよね?」
「はい、そうですね…」
「でろよー!笑」
シンジさんに笑われながらどつかれた。
明らかに自分が悪すぎでバツが悪いのだか、なんでかシンジさんのツッコミをうけれてなんだか嬉しかった。だから私もそれに応じて笑う。
「すみません笑」
「お金は?どのくらい稼いだの?」
「30000です、服がかえる値段はなんとか…」
「30000かぁ〜、なるほと。それ稼ぐのにどのくらい働いたの?」
「えーと…2回働きました」
「もっとはたらけよー!笑」
と、またどつかれたのであった。シンジさんにどつかれながら何か心の中で気が楽になっていくのを感じていた。
何気ないコミュニケーションの一部。別に特筆する必要はとくにないであろう描写。この感じた楽さというものは、対人コミュニケーションにおいてのいつもの私であるから、この時別に特別な違和感は感じることはなかった。しかしながらこれが後の、私自身の根本を揺るがす消失を産む物であるということはこの時は知る由もなかった。
1日目のメンバーは揃ったということで、空港から札幌に移動することになった。空港から札幌まで40㎞ほど。電車で1時間から2時間。私の家から県内最大都市のO市までの距離と大体同じであると思うとかなり遠く感じるが、道民からしたらそれは大したことのない距離なんだろうなと思った。初めての北海道はこんな何気ないところからも私に、普段住んでいる場所とはまるで違う世界であるのだということ教えてくれる。
同じ座席シートに私とシンジさん、そしてfさんが座った。営業について、このツアーについていろいろな話をしながら、その中ふとfさんがいう。
「QBさんって、先週のシンジさんの飲み会にいた人たちとはなんか違った感じですよね」
私は心のなかでびくついた
(飲み会…)
そして私は項垂れるように落ち込んだ。それはあれだ。私がいけなかったシンジさん主催の飲み会だ。いけなかったのではなく、シンジさんに出禁を命じられて落ち込んだ飲み会だった。否、出禁ではない。来てもよいが条件をつけられた。
『来たいのならば女の子を一ゲットしてからとする。』
そうラインにて告げられた私は結局告げられてからというもの一度も出撃する事もなくアポを入れることもなく、参加する事を諦めてしまったのだった。
「そうだね」
と私が悲しんでいる飲み会の事はほっておいて、シンジさんは言う。
「この人はピロスケの弟子だからね。」
ピロスケという言葉を聞き、今度は少しギクッとした。普通は聞きなれない単語にfさんは当然の反応をした。
「ピロスケって誰ですか?」
「高石さん、高石宏輔さんのことだよ」
「あーはい」
「うちの講習に高石さんの弟子が結構来ていて。それが凄く大変なんだ」
「どういう事ですか?」
私は何故だか口を動かす事はできなかった。シンジさんは身振りも交えながらそのことについて解説していく。
「高石さんは人から、人を形成する枠組みを取り外してしまう。で、そのクライアントの人は自身を象る枠組みを外されるとどこに行ったらいいかわからずその場に留まってしまう。だからカウンセラーってのは普通そこで新しい価値観や人間性の枠組みを与えてあげるんだけれど、高石さんの場合、自主性を育むためにそれをあえてしない。」
私はしゃべることはおろか、うなづくこともできなかった。ただそれを聞きながら困惑していた。何故かって?このあとシンジさんがfさんに私という人間の自己紹介をしはじめるからだ。
「残念ながら彼によって動けなくなってしまう人達がいる。そう動かなくなってしまった人たちはなぜだか自然と僕のところへ集まって来る。だから僕は、どうにか動けなくなってしまった彼らを進めさせるための役割を担っているんだ。」
「そうなんですね」
fさんが私の代わりにうなづいてくれる。そしてそのあと、シンジさんはこう言った。
「QBみたいな人はナンパを教わりに来てはないんだよ」
意味がよくわからなかった。流石にそれはどういうことなのか聞いたのだが、結局この時は、この意味を知ることはなかった。
S町につき、各々のホテルに荷物を置き再度集まった。
「服買いに行くぞ」
事前にシンジさんにファッションについての指摘を受けていた。私は全身を変えるためシンジさんの指導のもと、予算30000円でおこなわれていた。今日のこのコーデをどうにかするために私は稼いできた。稼いできた!だなんてなんとなく響きは良い気がするけれど、先の会話にもあったようにそうたいした労働をしていない。でもそれでもファッションに関しては予算内で収まるものだと思ってた。
服屋さんの予算内で店員さんによるコーディネートを着てシンジさんに見せに行く。
「ダサい」
(マジか?!?!)
驚いた。店員さんセレクトなのに…!マジかよどゆことだよシンジさん…店員さんも軽く動揺している。ここで軽く耳打ちをされる。
「店員が買わせたい商品つかまされてるだけだからな」
私はこの店員さんにとりあえず今売りの商品をつかまされたという事か…なるほどそういう事か…これが彼らの「営業」か…。さすがシンジさん…。そう感じていた。一発目でディスられた店員さんはこの客はやり手やぞとでも思ったのか、別の服を探しに行った。その間にシンジさんは他の仲間の選ばれたコーディネートを見ていく。
「うん、いいんじゃない。自分は着てみてどう思う?」
タートルネックのニットを中に入れたyさん。確かに最初のイメージと全然違うような気がした。くっきりとしたyさん自身が持ち込んだ黒地のロングコートに白色のニット生地が調和されて軽やかでカッコいいイメージになったような気がする。と、ファッションがからきしな私の感想なんぞアテにもならないが、少なくとも絶対にダサいなんて言われる事はないと思った。別に化粧をしたわけでは全くないのにyさんの顔も心なしか自信に満ちた顔つきになっていた。
「いいと思います」
「よし。それ買いで」
そのまま着ていくという事で試着室から出てその場でタグを外してもらうyさん。ファッションって人に自身溢れる雰囲気も与えるというのは、よく言われている事だが、今目の前でその変化を目の当たりにし、確信という形で知る事ができた。
二着目をきた私はyさんの判定が終わった直後、シンジさんに見てもらう事にした。
「これどうでしょうか!」
「ダサい」
「ぬぬぬ!?」
私はまた驚いた。そして変な言葉を口にしてしまった。二回目?!この店員さんまた私に「営業」仕掛けたのか?!つい店員さんの顔を見る。この店員さんも驚いた顔をしていてだいぶ頭を悩ませているように感じた。シンジさんは一言判定をした後、また別の仲間のところへ行き、判定を行った。アリナシを瞬時に見分けるシンジさんの顔はとても冷静で機械的で執念深く信念強さみたいな物を感じ取れた。講習モードって感じがした。同じ時間に何人ものコーディネートの面倒を見るのだ。それはとても大変な事ですごい集中力がいるのだろう。大変そうで何度もなんども見てもらうのはなんだか申し訳なくなってきて気が引けてしまうように感じたのだが、その時は尊敬の眼差しで、すごいな…と感心してしまっていた。
そういえば営業の時のシンジさんも執念深い雰囲気を出すのだが、それとはなんだか違うような気がした。
三着目。
「ダサい」
違う店員さんセレクトにしてみて四着目。少し離れてみた後に
「ダサい」
その店員さんは店長さんだった、裏で値引き交渉をしながら五着目。シンジさんは私の顔を手のひらで隠して戻してみた後に
「ダサい」
「ま、まじすか…」
連続アウトで私は店員さんにも申し訳ない気持ちになってきてしまった。どうすればいいんだ…混乱してきてしまった。いったい何がダメなんだろう…店長さんのところに戻り服を脱ぐ。「どうでした?」とワクワクとした感じで聞いてくる店長にダメでしたと伝えると彼はマジかーっとマッシュになった自身の髪をかきあげ、私に説明しながら服選びを続けていった。
「ダサい」
気がつくと、いつの間にか私以外の仲間のコーディネートは終わっていてこのお店のお客は私とシンジさんだけになっていた。
「自分着てみてこの服装どう思う?」
最初にセレクトをしてくれた店員さんと何かを話しているシンジさんに、もう何回ダサいと言われたか忘れてしまった時、そう聞かれた。
「どう思う…うーん…よくわからないです」
「変わったところとか、何か感じない?」
「確かにこの服装はいいなぁとか思うんですけど、これが果たして自分に合っているのか、全くわからないんですよ…」
ここで店員さんにシンジさんが言う。
「こういう身長が低くて、ガタイがよくて、そして顔がでかい彼みたいなタイプってなかなかいないからどーもイマイチピンとこないんだよね」
「うーん、確かに難しくはありますね」
店員さんもうなづく。今私は嘆くべくところなのか…それよりもただただ困惑をしていた。私はどうすることもできず、ただただついていくしかなかった。
「まぁそれよりもね、どうも俺の目には、QBが服を着替え終わった後、納得いかないような不満そうな顔になっているのが一番引っかかっていて、自信持ってゴーサインを出す事ができないんだよ。」
それをきいて私は目玉が飛び出た。
「そ、そうだったんですか…!?本当にファッションが全然わからないから、どうすればいいのか混乱してしまって…」
「QBつかれてきたろ」
「え、どうなんでしょう…そうかもしれませんね…」
「君にはお金がない。予算が限られている。いろんな制限があるってのもあって、どうしたらいいのか俺も悩んでいる」
私はそれを告げられ深い悩みと困惑の溢れる世界に浸ってしまった。そしてふと口から漏れ出た言葉はこれだった。
「下ろせば…あります…」
胸の奥で激しく動くものを感じた。いってはいけないことを言ってしまった気がした。
「でもそれはナケナシの金だろう?無理はさせられない」
「…」
金は確かにある。ということは私はただお金を出すという行為に対し、踏ん切りがつかなかっただけの保守的な臆病者になってしまっていたのだろうか?
否、そうではない。今回のツアーで出せるだけの金には限度がある。ツアーがおわれば魔法少女の巴マミとの旅行アポがある。大学関連のアポもある。更にはもっと先の将来の資金、来年度から都内で暮らすためのわずかながらな貯蓄の意味合いも含んでいた。下ろせば用意することができるというのはその資金を削るということだ。
「四万円になれば…全身のコーデをすることができますが…」
店員さんが声を恐る恐る発する。
彼らのこえが悪魔の囁きにしか聞こえなかった。将来の担保をどうするべきなのか悩んだ。たった1万円。そうたった一万をだせば私は大きく変わることができる。だがその一万という数字は、(本当に情けないことに)今の私にとってはとても大きな数字であった。そもそもは怠惰をしていた私が悪い。悪いのだが…店から一旦でて、お金を下ろしにコンビニへ行くそのための一歩が、踏み込めない…
今シンジさんに下ろしてこい、といわれたら間違いなく私はすぐさま下ろしに行っただろう。実を言うとこの将来の担保としている金は確実な境界線を引いているわけではないからだ。口座にある金をなるべくなるべく削らないように削らないようにしようという意識までしかなかったのだ。そんなに不安ならば具体的金銭境界を引いてしまえばいいのに私はそんなこともすることはなかった。
この時の私は、当初予定としていた三万円を超えてしまう、その事実を確定してしまうことによる恐怖が、私の中でただ永遠を感じさせるような葛藤を生み出していたのだった。否定的なのに、背中を押されたら簡単にそちらがわへ動き出してしまうような脆弱で空虚な葛藤。
多分しんじさんはこの私の葛藤の状況ついて知っているのであろう。だがシンジさんは下ろしてこいとは言わなかった。いや言えなそうにしていた。踏み入れてよいのか…踏み入れてはいけないのか…この人間を壊していいのか…悪いのか…。シンジさんは今までに様々な人を見てきている。私のような人間も何人も見てきたのだろう。そんな一般人には到底考えられない私タイプの外道人間が抱く下らぬ価値観や思考について重々に把握している。そこに優しさを私は感じた。だが逆にこういう視点解釈をする自分もいた。 この人間は果たして壊れる人間なのか?それとも壊れない人間なのか?踏み込んでいい人間なのか?否か?下ろしに行く人間なのか?否か?
視界が真っ青になった。目に映る物が全て青色になっているような感じがした。色覚の障害があるわけじゃない、だからそんなことはあるはずがない。自分が自分を脚色しているのはわかっていた。だがそうならざる終えなかった。状況に私がのまれていたのだ。空気に、彼らに、無為意識に、陳列された服たちに。私の視界が影響を受けてしまっているのではないか、そう感じていた。
何も考えられない。思考が停止している。ただ私の無意識が「危険だ、絶対に踏み止まれ」と警戒を鳴らしつづけていた。
私は眼球が不規則に動いていることに気がついた。それを無理矢理とめて視界を固定させる。そうすると口が勝手に動き出した。
「下ろして、きます」
感情の震えが止まり、警告音が消えていた。
そのあとのコーディネートはただ作業化されたような物に感じた。これはよい、悪いを私も機械的に判断していた。そして静かに購入を完了させた。
下りのエスカレーターにてふとシンジさんは振り向いて言う。
「君には恨まれるかもしれない」
ははは、そうっすよw
マジで勘弁してくださいよw
ぶっ殺しに来てますねw
だなんて言葉は頭にも思い浮かばなかった。ホテルに帰った後、シャワーを浴び、髪をセットし、みんなとともに晩御飯を食べた。hさんだったかfさんだったか、雰囲気変わりましたねと言われた。そしてそのあと。札幌という町でのストリート営業を始めてた。結果はに一連れだし二番バンゲ。バンゲした女の子からは後日のアポとりを行った。特別地蔵することもなくつつがなく終わっていた。朝までストをやるということは今までなかったのに何故か、私にとって普通で、して当たり前のことをやったような気がする。普通というのは初日のストに対しては対した思いを抱くことはなかったということだろう。
泥の中に足を引っ張られるのを感じた。私の体は泥に埋もれた。そして、その泥の中からもう既に更に深いところへ引きずり込もうと体の至る所を掴まれている、ような錯覚があった。