【北海道ナンパツアー5日目】嫌悪拒絶の解
- 2015/12/13
- 18:04
小汚いクラブを出てスマホを見たらいつの間にか0時を超えていた。北海道に来て4日が経過している。そんな中私は未だ即をできていない。なんの結果も出せていない。ありとあらゆる女の子からの様々な拒絶を受け続け、何もかもが嫌になっていた。スマホをよく見るとラインに通知が来ていた。グループチャットにシンジさんが書き込んだものであった。
『〇〇前今熱いぞ!ゴールデンタイム!』
『自分今行きます』
頭と体は乖離していた。私の体はもう無意識に駆け出す様になっていた。
その場所に到着すると、完全に白けていた。確かに女の子はいなくはないが、それは渋谷のスクランブル交差点の一回り小さい程の大きな空間に1〜2人いる程度であった。どうやら一歩遅かったらしい。納涼船でもにた様な出来事があったのをふと思い出していた。
シンジさんはいなかった。いない間に、ちらほらといる女の子たちに声をかけていく。上手く引き止めることが出来ない。この場所にいる、またこの場所に現れる全ての女の子に声をかけていくが、皆オープンしない、立ち止まらない。
(雑になっているということか…)
そうとしか考えられなかった。だが、今の自分にはどうすることもできなかった。姿勢を正しても、喋り口調をゆっくりにしても、しっかり相手の目を見て話しても、笑顔をしっかり見せたとしても、全く立ち止まってくれない。今の自分の意識は治せるものではないことを知った。ただでさえいない女の子の数もどんどん減っていき、私は凍える空気に抱かれながら道端で孤立していた。
そんな中シンジさんが到着する。シンジさんもまた、腿上げをしながら寒そうにしていた。
「ゴールデンタイム一瞬だったわ」
「ですよね、全然いないですもん」
「クラブ周辺見に行こう」
「了解です」
シンジさんとのコンビストがはじまった。
「俺ら相性悪いよな」
しばらくストをやり、笑いながらシンジさんは言った。初日と二日目、そして今日の結果を客観的に踏まえたシンジさんの分析だった。この時点で私はシンジさんとはかなりの時間、コンビストをしていたように思う。それで今のところの成果が一連れのみ。私も重々にわかっている事実であった。
クラブ周辺、ホスト周辺は確かにそこそこ女の子たちがいる。その女の子たち全てに声をかけていく。だが一度もその女の子たちをものにできなかった。私は項垂れつつも、女の子を探しながら答える。
「スンマセン、俺がスト低なばっかりに…」
「そこは気にしなくていいからね」
そう声をかけてくれた。
「二人組にコンビで行くときはどちらか片方が先に行くかたちをとったほうがいいよ。2人同時に行っちゃうと警戒心持たれちゃうから。」
「わかりました。ではあの子達に俺はどう立ち回れば」
「俺が先に行く。QBはあとから」
「わかりました」
だがその後も惨敗。連れ出し打診は愚か、立ち止めもままならなかった。
シンジさんは随時アドバイスをくれた。コンビだからトークについて、声かけについて、全て間近で見ててもらえるから明確なアドバイスだった。
「QBが特にダメなのところは2つ。会話が雑、それと軸がブレブレなのがある。」
「体の軸…」
「ふにゃついてる感じ。弱々しさが伝わる」
「…はい」
(ならどうすればいい…?)
(どこを変えていこう…?)
(何をすれば即れる…?)
そんな疑問がふっと浮かんでは胸の奥に消えていった。シンジさんの言葉を返す度、私の口数は減っていき視界がどんどん狭くなってゆく。狭くなりながらも、女の子に声をかけ、笑顔をつくり、話し、そして拒絶されることを繰り返す。
(つか、すげぇなほんとこの人は…女の子と話しながら俺へのアドバイスも考えてる…)
(脳内麻薬出すぎでしょ、あらゆるリミッターをこの人は外している。いや、もうリミットなんてモノはもう麻痺してなくなっていて、そんなのはいつでも出すのが普通っていう感じなのかも…)
(俺も俺で頑張ってるとは思うが、こんなエグい精神を毎回スイッチオンオフみたく簡単に切り替えできるこの人は、ほんと何を今までやってきたんだ)
(何をどうすれば一体こういう人間になれるんだよ?)
言葉を発さずと、どんどん内から疑問以外の言葉が湧いてきているのを感じていた。夜の街を歩く女の子たちへの意識が完全に落ちてしまった。
「…」
(てか俺って、なんのためにナンパしてるんだ…?)
私は完全に消耗しきっていた。蛻の殻。我ここにあらず、シンジさんの言葉に返答はするが、そこに意識はなく。ただただ「今生きているんだ」という合図を送っているだけでしかなかった。シンジさんはそんな私をちらと見ていう。
「ちょっといい?」
「あっ、はい」
私は我に返った。
シンジさんは一息置いた後
「ドーナツ奢るから中、入ろう」
そう言った。
某ドーナツ屋に入店する。このお店は24時間営業の様で、始発までの寒さ凌ぎをする人達で席はいっぱいだった。シンジさんは私へのドーナツだけを注文し2人分の水を貰っていた。
入り口がすぐ近くの2人席が空いていたのでそこに座る。
「QB。反省会をしようか。」
席に着くとシンジさんはそういった。
「有難うございます。お願いします」
あぁ終わったんだという確信だけはあった。
*会話で覚えている内容を以下に書く。しかし記憶があやふやな所ばかりでうまくまとめられそうにないので、雰囲気が分かる程度に改変し、記した。
「まずパスした子、どんな感じだったか教えて」
「バーに連れ出した後1時間ほど和みました。世間話とか仕事の話とかいろいろと。で、恋愛観を引き出そうと恋愛トークをしたのですがそこで上手くいかずに放流です。」
「なにか言われたの?」
「説教されたみたいって言ってました」
「説教…?」
「彼女の考えを否定してったつもりはなかったのですが、やはりワンナイトというのは抵抗があるみたいで、いつの間にかその彼女の考えを説得していく様な形になっていて、それを説教されてしまったと感じさせてしまったようなんです。」
「うん」
「次に行ったほうがいいと思って放流しました。」
「そーかぁ…」
「シンジさんもあの子はダメだと仰ってましたけど…」
「まぁ確かにダメ系なんだけれど、どうやらQBは女の子に対して嫌な感情を持ちながら会話しているみたいなんだよね。」
「嫌な感情って、どんなのでしょう…、」
「女性不信とかあったりする?」
「いやいやそんなことは。ただのふっつうの女好きですよ?」
(実は女性不信になっていた過去があったのをこの時は頭の中からすっかり抜けてしまっていた。)
「ならいいんだけど、QBの知らないうちに女の子の嫌いな感情も持ってしまっている。その感情があるから女の子の価値観を改めようって力が働いて行き過ぎた説得を始めてしまう。結果女の子はどんどん離れて行っちゃうよ」
「自分はやりすぎだった訳ですね」
「うん。だから崩すって考えよりも、まずは女の子に寄り添う。考え方や感情に。それが大切だよ。QBには女の子大好きな自分がいる訳だから、そのプラスの意味合いを含んでいる感情を言葉の中に織り交ぜて行ったほうがいい。」
「なるほど…」
「あの子放流してからはどんな感じ?」
「2人連れ出しました。」
「ほー」
「1人は長いこと並行トークして、『一杯だけ付き合って』っていったら付いてきて、店入って飲み物が来るやいなや一気に飲み干してまさかのそのまま出ていくという…びっくりしましたよ」
「そういう子もいるよ」
「そうなんですか?それで…面白いのが、じゃーねって別れる時たらその子その場で立ち止まっていて。帰ってく俺のことをずっと見てるっていう。」
「それが彼女の彼女なりの誠意の見せ方なんだよ、きっと」
「すげぇっすね…それ…」
「もう1人は?」
「もう1人はクラブに連れ出しです。連れ出しですっていうよりは、その子がクラブ行きたいって言うからついてった感じです。んで、まさかだったのですが、そのクラブ、その子が働いているクラブだったみたいで。どうやら自分はその子に逆に営業をかけられていた、というわけです。」
「うん」
「その後その子しれっと居なくなってて、しょうがないので暫くクラブでナンパをしていたのですが、クラブってなんか自分に合わないなーって段々嫌になってきてしまって、出てきてしまいました。そこからシンジさんと合流した、っていう感じです。」
「なるほど、ありがとう。」
「はい」
「繰り返しになるが今後QBの今後の課題は、ナンパ基礎体力をつけることにある。」
「ナンパを習慣化させること、ですね。」
「そうだ。」
「今すぐにっていうのは難しいです…」
「そうか…」
「でも来年から、実家を離れることになってます。否応なしに一人暮らしをしていくことになります。」
「うん」
「そうすれば毎日ナンパ漬けです。働きたくないっていうこともなくなります。生きていけないから。だから、否応なしにこの今の怠惰の輪から抜け出せると思うんです。多分そうしないと、ダメなんだと思います、俺は」
「そうだね」
「…」
「朝、QBに仲間からも嫌われているということについて言ったけれど、あのあと何かあった?」
「特には。前日通り変わらずだと思います。変えようとしても正解なのか不正解なのかわからない。だからいつも通り接しました。」
「自分の何が人に嫌われるものになっているのか、分かる?」
「雑なところ、空気の読めないところ。それ以外はわかりません」
「そうか…」
「君ってさ、怒らないの?」
「怒る?なんでですか?」
「もしかしたら怒れないのかなぁとか思って。君に対していろんなことをしてきたじゃん。お金のことや嫌われてるって伝えたこと。そのことに対してQBは俺に何も言ってはこないじゃん」
「そうですね。でもそれらは自分が悪いので怒る要素はないです」
「うん、だから普段キレることがない人なのかなと思った」
「キレる時はありますよ。」
「へぇ、どんな感じに?」
「怒る時は相手をいかにして嬲り倒せるか考えて、事前に緻密に計画を練り上げて準備してから相手に挑むスタイルでした」
「以外だな」
「大学時代の研究室でそれやって見事に孤立しちゃいました」
「ほー」
「もう恥ずかしいんでしてません。仮に怒ってもその場で、みたいな。怒るとか、正直恥ずかしいです」
「なるほど。文句の一つも言わないわけだ」
「文句、ですか?」
「そう。君、今そういう感情があるから俺し対して不満とか陰口、言わないんだと思う」
「全然そんなことないですよ?影でシンジさんの悪口めっちゃいってます」
「えっ?そうなの?」
「はい」
「どんな?」
「シンジさんはナンパを教えるのに向いてないって言ってます。」
「へぇ。いつからそう思ってたの?」
「納涼船の時からです」
「おお」
「シンジさんはナンパを教えるの人なのではなくナンパを見せる人なんだと思っています。なんで向いてないって思ったのはシンジさんはナンパを教えていく上で抱えている闇や感情が深すぎるからです。だからつい講習生の抱えている闇とか感情に囚われてしまう。」
「続けて」
「んで同時に自分も病んでしまう。実は根が優しいから、女の子するように講習生に寄り添ってしまう。教えるのが下手というわけではなくて、教えるのに適した人じゃないんですよ。シンジさんは。そう言うことをツアー中みんなに言いまくってましたよ。」
「…」
「常に闇を抱えつつも機械的にナンパの世界にあり続け結果を出し続けるシンジさんの姿に我々は憧れます。だからシンジさんは我々にナンパを教える人なんではなくて魅せてくれる人なんだと思うんですよ。…ナンパアスリートみたいな、そんな感じです。」
「うーん。俺は誰よりもナンパを教えるのがうまいと思っているよ。」
「そうですよね」
「てか、それ全然悪口じゃないじゃん」
「そうですか?自分的には悪口のつもりでみんなに言ってて、悪意あるなぁって思っていたんですが」
「うーん」
「シンジさんのやってることは社会的には教える人として認められない教え方なんですよ」
「どういうこと?」
「自分みたいな社会不適合者をほっておけないじゃないですか。そしてそれについて不適合である核となっている部分を指摘することをしない。シンジさんのやっていることは学歴社会で例えるなら偏差値20そこらの子供を40に上げることをしているのです。Fラン大学に入れさせることです。大変素晴らしいことなんですが、残念ながら世間が優秀な教師として認める人材は偏差値50の子供を東大に入れ続けていくことです。」
「…」
「弱者の救済をいくらやっても、社会的に客観的に一般的にみてみると、教える者としての評価は優れているとはいえないんですよ。」
「んー」
「俺はそういう教師が好きですけどね。教師の在るべき姿だと思っています。だからそういう教え方をしているシンジさんは優しい人なんだな、と思っています。」
「俺は、優しくはないからな」
「そうなんですかね?まぁでもシンジさんも、俺に対して怒りませんよね?」
「んー…」
「…」
「kがQBにめっちゃきれてたことは知ってる?」
「はい。避けているなというのはわかっていました。車中ではいろいろと言ってくれましたよ」
「kがQBに対して一番切れてたところはどこだと思う?」
「え、そうですね…わからないです。俺という存在全てに切れていたのかと」
「ジンギスカンのときだよ。ジンギスカン食べていた時、君は我々に怠惰の哲学について語り出していたよね。その時。」
「あー」
「あいつは普段真面目に働いて、社会に生きている。そしてナンパをしている。趣味も仕事も全力で取り組んでいる人間だ。そんな努力をしている人間を前に、あいつと真逆の人間である君がそれを全否定し、蔑むようなことを言ってしまっていた。俺らのテーブルだんまりしていたろ?君のお陰であいつがイライラして会話どころじゃなかったんだよ」
「そうだったんですね」
「それと温泉でbと遅れてでてきたのもあったろ。」
「はい」
「あの時bは、もうこの世の終わりみたいな顔して俺のとこにやってきて謝ったんだ。」
「bさん…」
「でも君はそれをしなかった。k個人ならず、全員に不快感を与えていたんだよ」
「俺はみんなに謝った後、個別にもう一度謝りに行きましたよ」
「…俺には謝りに来てないだろ?」
「あ…ごめんなさい…」
「気づいていないと思うんだが、人と話す時どうも人を見下したような、嘲笑ってるかのような喋り方をするんだよね、君は。そう言うところからも人に嫌悪感を与える原因になっている」
「会話の雑さ、ですね」
「それと君にこれいうのもなんなんだけど」
「…はい」
「ラポール。全く築けてないからね」
「ラポールが築けてない…?」
「…ちょっと水取ってくる」
「納涼船のとき、Aにばっかり怒ってたって思っているみたいだけれど、本当はQBのほうにムカついてたんだよ」
「そうなんですね」
「どこでそう思ったんだと思う?」
「俺がアルフの挙動を指摘したところ、ですか?」
「そう」
「そうですよね」
「ブログではシンジさんはハッとして、とか書いてあったけど、ハッとどころじゃなくて何を言ってんだってコイツって腹たってた」
「言った時やってしまったな、とは思っていました」
「別に力がある訳でもない君が、アレをしたという事は本来あってはならないことだよ」
「はい」
「きっと誰かのマネごと、誰かになりきっているだけなんだろうと思う。君が尊敬している人、動画で見たナンパ師、著名人、ナンパブログに書かれたテクニック。そういったものを君はただ意思もなくコピーしているだけだ。」
「そうですね」
「そういった君が憧れた存在…彼という人間になろうとして、恐らくナンパを始めたんだろうと思う。だから別にナンパじゃなくても良かったんだと思うよ。」
「そう、かもしれません」
「彼になるのだったらまず、努力をするはずだ。行動をする筈だ。彼は君の知らぬ想像も絶する世界で生きてきたからこそ、カリスマ的存在となった。彼になるのならそれと同じようなことをする。だが君は、そういうことをしない。しようとすらしていない。」
「…」
「君は、力のあるもののフリをしている。君が今やっていることは彼という存在の表面的な部分をなぞっているだけにしか過ぎないんだよ。」
「はい」
「君は傲慢な人間なんだ。その傲慢さが、周りの人間に嫌悪感を与えている」
シンジさんの指摘は続いていった。私はシンジさんの言葉に頷き、適時回答をし、の繰り返しだった。私はシンジさんを打ち負かそうとかそういう感情で話していた訳ではなかった。思っていたことを素直に話した。シンジさんも同様に言葉でぶちのめそうとかそのようなことを考えているわけではなさそうだった。視線を落とし静かに淡々と事実と考え方を述べてきてくれる。
私はいつの間にか足を組み、涙を零していた。記憶のが曖昧なせいで、いつ聞く耳を持ってない態度を示していたのか、何が涙のトリガーになっていたのか、わからなかった。涙が流れそうになったとき自分の状態は鮮明に覚えている。涙を零さないよう堪えなければならないと必死に押し込んでいた。だが、こみ上げてくるものを耐えれば耐えるほど私の人格が移り変わっていくのがわかった。人格が完全に移り変わったとき、私は泣いていた。シンジさんは泣いている自分には気にも止めず、変わらず同じように私に言葉をかけ続けていた。別に私を泣かせるつもりで話をしている訳ではなかったんだろうと思う。ただ図星という事実を言っただけだったのだ。その図星という事実が私の涙腺に響いた、ただそれだけのことであった。
私は答えるたびに涙が溢れていった。面倒なので零すだけ零していた。自分が喋る時だけ拭うことにしていた。周りが全く見えなくなってきて、塩で皮膚がピリピリしてきたから仕方ないので話を聞きながら手のひらで拭った。拭いきれなかった。
「はは…俺は何のためにナンパしてたんだろうな…」
そんな独り言が漏れていた。
「おい」
「はい…?」
「今何で笑った?」
気がつくとそこに目線の矛が向けられていた。真っ黒に透き通った、真っ直ぐで丸い、しかし鋭利に突き出した、怒りと憎悪の塊が目の前に突きつけられていた。意味がわからなかった。悲しみの表現は人それぞれじゃないか?驚きでか、何故だか返しの言葉が出なかった。
「今笑うところじゃないだろ」
矛が力んで震えているのがわかった。震えながらも矛先は私の眉間を確実に捉えていた。私は口を開けた。
「笑うしかないから。ですよ?」
矛はしまわれた。
私の涙はもう枯れていた。
「ツアー中は勿論面倒をみるけれど」
「これからは君と関わること絡むことは一切しないことにする。講習生としてきた時に、改めて関わりを持とうと思う。」
拒絶だけがそこに置かれていた。
店をでる。
凍てつく風が空いた首と湿った目尻を急激に冷やし、私は再度身震いをした。シンジさんも肩を力ませる。
「明日はどうするの?」
シンジさんがそう問いかけてくる。私はシンジさんについていく予定でいた。前々からそう予定に決めていたから。だから反射的に深い思考もせずなにも悩むことなくこう答えていた。
「旭川に」
シンジさんは私のその答えに寸刻も開けずに次の問いを投げかけてくる。まるでこっちを見ていなかった。
「旭川に何しに行くの?」
なにしに?それはそう予定で決まっているからだ。だがそうは答えられなかった。よくよく考えてみる。そういえば今の私には旭川に行く明確な理由がなかった。パッと浮かんだ言葉をそのまま並べていた。
「女の子ナンパしに。それとせっかくの北海道なので観光をしたいなと」
「そう」
シンジさんはそれだけ言うと、今度は私の方を向いて言った。
「これからのストではもう、即することは考えないでいいからね」
「わかりました」
私はシンジさんから離れていく。もう私はこの場にはいてはいけない。一刻も早く部屋に戻らねばならない。そう感じた。
「これからどうするの?」
「顔洗ったらストに出ます。出直してきます」
「わかった」
五日目の正午。シンジさん、fさん、hさん、bさん、そして私はあるラーメン屋でツアーのまとめをしていた。yさんkさんはもう北海道にはいなかった。ラーメンを食べながら、シンジさんがみんな一人一人のツアーでの評価と反省、そして今後の指摘をしていく。
私の名は呼ばれなかった。というか、シンジさんはこの日私の方を見ることを一切しなかった。fさんの反省の中、唐突に私に関する話題にかわり、シンジさんは私の方でなくみんなに私のことを言い聞かせるように話した。
「こいつは本当に厄介な人間。非社会的人間、反社会的存在で、底辺弱者、淘汰されるべく存在だ」
「人とコミュニケーションは取るけれどもエネルギーをオフにするのがあまりにも急過ぎる。」
「雑の会話をずっと続けていたから、女の子たちだけでなくツアーで一緒の我々たち全員に常に違和感を与えていた。」
「社会不適合者であるこいつは、今まであらゆる社会からコミュニティから外れ者扱いされてきた。外されるたびコミュニティーから落とされ別のコミュ二ティーにへと移りながら生きてきていた。そう転がり落ちるように今もなおコミュニティーを転々といる。」
「しがみつくところはどこでもいい。今たまたまナンパクラスタというところにしがみついていただけだ。しかしここからも外されることとなってしまったんだ。ナンパクラスタの社会的地位はかなり低い。底辺の部分だ。こいつは今後もっと低いところへ落ち続けていくんだろう」
シンジさんの代わりにみんなが私の方を見ていた。みんな悲しい顔で私を見ていた。シンジさんとの共感によるところなのか、私に対しての憐れみによるところなのか、わからなかった。
ラーメンが食べ終わり席を立つ。
私は立つために椅子を引くシンジさんの前に立ち、声をかけた。
「シンジさん。自分やっぱ札幌に残ります」
シンジさんは顔を起こし、今日はじめて私の顔を見る。目線がはじめて合う。一瞬だが、口がぽかーんと空いていた。私から解放されてほっとしたような、抱く負の感情がすっきりしたような、何か重荷を降ろし楽になったかのような、そんなような顔をしていた気がする。
「わかった」
店を出る。
「公家シンジのツアーはここで終わり。みんなそれぞれ、気をつけてくれ」
私たちはシンジさんと最後の握手をした。ほんの一瞬の握手。力強く硬い握手。握手の時、シンジさんはもう私の方を見てはいなかった。
握手を終え、そうして、皆それぞれ別々の方向に歩いて行く。「公家シンジ北海道ナンパツアー」が終了した。
私は宛ても途方もなく歩いた。
居場所がなかった。止まるべく場所がどこにあるのかわからなかった。だがトランクを引きながらは疲れてしまったので、結局たまたま通りかかった喫茶店に入る。ネットで今日の宿を決め、予約したのち、バンゲをした女の子たちに片っ端からラインを入れる。1件のアポが決まった。そのあとはずっとぼーっとしていた。あっという間に時間が過ぎていた。
日が暮れたのち、チェックインをすます。シャワーをあび、髪をセットしストに出る。雪がちらほら降っている中、声かけをしていく。何十回か声をかけたのち、ようやっとギャルをバーへ連れ出す。だが未成年だったため一杯だけ飲んで放流した。その後もつづけてはみたが段々雪が激しくなり、同時に女の子たちも居なくなっていった。アポとの時間も迫ってきていたためホテルで待つことにした。
アポを待ちながらツイキャスをし、北海道のまとめを行った。結局アポはドタであった。面倒臭がるその子を迎えに行く気力すら湧かなかった。喉が渇いたので外に出るついでにもう一度ストをしようと思った。
外は猛吹雪だった。
北海道が始まっていた。