営業開始一周年記念指輪
- 2016/06/09
- 17:43
「先風呂入るね」
そう言われ、すっかりリラックスできる場所として入り浸らせて頂いてしまっているこの部屋で私は間抜けた返事を返す。1人になったこの部屋で私は定価20000円の座っていても腰が痛くならない優秀な椅子に勝手ながら腰掛る。
細めた口から息を吐き、腹に抵抗を感じ、肺が押しつぶされかけた後、鼻腔を鳴らし、上半身前方を膨らませる。吐く息の触れる舌からはナチュラルウォーターの味がして、吸う鼻炎気味の鼻からは梅雨入り口の匂いがするようなしないような、気がした。
目閉じ思い出す。
この一週間様々なことが起きた。
40分で2人の女の子に精子を二度連続で出した疲労感は途方も無いほどの筋肉痛となったし、賢者タイム崩壊の発端となった。2人の凄腕営業師に会った時は心底絶望をした。自身の神聖を破壊され困惑した私は皆同じ人類であるという当たり前の事を知ることとなった。外道会を発足すると人と己の無知さと未知さを同時に心身共々影響を受け、私の脳と筋肉は実は常に同じフレームの中に収まりきっていて客観視の難易度に気付かされた。
一週間前だけではない二週間前、三週間前、いやもっと前も、いろいろなことがあった。全て私にとって大事な出来事であって、形として残すことができれば凄く良いものが作れそうなものばかりの経験であった。
そう言えばブログを書いてなかった。東京に越してきて、仕事を始めて、人と出会い続けた結果、物を書くということをしなくなった。いや、出来なくなった。初めは書きたいことが多すぎて頭がパンクしそうになっていたが、どうやら私はいつの間にかもうパンクしてしまったらしい。パンクしてからいうもの一切メモ帳には触れられなくなっていた。私は孤独であったから文を書くことができていたのだということを走馬灯のように流れる一週間の記憶と共にふと感じられた。この孤独という原動力は寂しさによるところなのか、怠惰極し傲慢さによるところなのか。まだよくわからない。兎にも角にもまた、ブログを書き始めていこう、久々のブログは今日この光景を描く事にしよう。そう決めていた。
私は人様の部屋で寝ているように見えるだろうけどかなり神経をとがらせて集中している状態になっていた。これがトランスというやつなんだろう。すっと目を開けてみる。そして目の前にたまたまあったアイフォーンのケーブルをじっと、集中してみる。細く歪みなく曲線を描く白い線が…何故だろう、黒く黒く捻れ、あたりの空気も巻き込んでいくような。そんなようなものが見えていた。しかしハッと気がついた時には元のただの白いケーブルがそこにあった。
家主がシャワー室から出てきた。私は椅子から立ち上がり家主に
「それでは…借ります」
といった。1年前の右中指には存在しなかった銀の指輪がくすんだ光を反射させる。私の眼は力んでいた。